「身だしなみ」が苦手な発達障害の子どもへのサポート方法は?
自分の身なりを気にするのが苦手、きちんとした服の着こなしができないなど、「身だしなみ」に課題がある発達障害のお子さまは少なくありません。
繰り返し注意をしても、まったく効果がない…と悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
身なりに気を配れない原因が、発達障害の特性によるものである場合には「身だしなみを整えなさい」と伝えるだけでは、行動が改善されないことがあります。
今回は、「身だしなみ」が苦手な理由と、家庭でのサポート方法について紹介します。
目次
身だしなみが苦手な理由
身だしなみを整えることが苦手な理由は人それぞれですが、発達障害の特性が原因となっている場合があります。その際に考えられるケースとして、大きく分けると2つのパターンがあります。
①「身だしなみ」を理解していない、必要性が分からない
②「身だしなみ」を理解しているが、特性によってできないことがある
お子さま自身が身だしなみの概念を理解しているのかどうかが、原因を見極める第一歩です。言葉の意味は理解していても、必要性が分からないという場合もあります。
お子さまの様子を観察してみるようにしましょう。
①「身だしなみ」を理解していない、必要性が分からない
ASD(自閉症スペクトラム障害)特性の「他者視点を持ちづらい」がある場合に、よく見られるケースです。
身だしなみとは「人に不快感を与えないように身なりを整えること」ですが、特性によって「人からどう思われるか」を想像することに困難がある場合には、「人に不快感を与えない行動」を理解すること自体にハードルの高さがあります。
服が汚れていたり、髪の毛が乱れていたりしても「自分にとって問題がない」と感じていれば、人から指摘をされる理由が分からないのです。
相手の立場になって考えることが苦手で、他者が「不潔な人を見て、どう思うか」を想像することが難しいためです。
このケースの場合は、お子さま本人を主語にした表現で、身だしなみの必要性を教える必要があります。例えば、「髪の毛を整えたほうが(あなたが)モテるよ」など、自分自身が得をするということを伝えるなどがあります。
詳しい対処法は後述します。
身だしなみだけではなく、「場面(TPO)に合わせた行動ができない」場合も、この「他者視点を持ちづらい」が原因となっているケースがあります。場の雰囲気や明文化されていないルールを理解することが苦手であるためです。
②「身だしなみ」を理解しているが、特性によってできないことがある
身だしなみを整えることの必要性は理解しているものの、特性による「苦手」があるために、髪型や服装を整え忘れてしまうことがあります。
原因はお子さまによってさまざまですが、とくに多く見られるケースを紹介します。
障害診断別|よくある困りごと
ASD自閉症スペクトラム障害 ADHD注意欠如・多動性障害 |
先延ばしグセ ADHD
面倒なことを後回しにしがちで、寝ぐせに気づいていても「あとで髪を整えよう」と先延ばしにした結果、忘れてしまう
注意欠如 ADHD
気がそれやすく、トイレを出たあとにファスナーを閉め忘れた状態で別の行動をしてしまう
視野の狭さ ASD
注意を向けることのできる範囲がせまく、鼻毛が出ている、シャツがズボンから出ている、ボタンを掛け違えているなどに気づかない
抽象的な表現の苦手さ ASD
「服がよれている・髪がぼさぼさ・清潔感がない」など、あいまいな表現が理解できず、何をどのように整えるべきかが分からない
感覚過敏 ASD
感覚過敏によって「歯磨き」「お風呂」などの整容が苦手
「身だしなみ」家庭でのサポート方法
身だしなみが苦手な理由によってサポート方法が異なります。
また、発達障害の特性は十人十色であるため、苦手な理由が同じであっても、お子さまに合うサポート方法が異なることがあります。あくまでも参考としてお読みください。
①「身だしなみ」を理解していない、必要性が分からない
特性によって他者視点を持ちにくい子どもに、「人からどう思われるか」を理解させるのは非常に難易度が高いです。
主語が他者になっている「相手が○○だと思うから」という表現は理解しづらいため、主語がお子さま本人になるよう「守るべき社会のルールだから」「身だしなみを整えたほうが素敵だから」などといった表現で、説明をするようにしましょう。
どのような状態が「身だしなみが整っている」ことなのかを具体的に教えていきます。鏡の前に立ち、実際の自分の状態を見てもらいながら、ひとつずつ説明するようにしましょう。
「服装がだらしない」という抽象的な表現ではなく、「シャツはズボンから出さない、肌着は見えないようにする、ほこりやフケは取る」など、分かりやすく明確に伝えることがポイントです。
日常生活のルールとして習慣化させることがおすすめです。
具体的なサポート方法は、後述の「②「身だしなみ」を理解しているが、特性によってできないことがある」と同様です。
「身だしなみ」の概念は抽象的で、具体的に何をどのように整えればよいのかのイメージを持つことが難しいことがあります。
前の記事でお伝えした「絵カードの活用」が有効です。視覚的に示すことで、どのような行動をするべきなのかを理解させやすくなります。
絵カードを使わない場合にも、お手本となる(身だしなみが整っている)状態を写真や絵で見せるようにしましょう。
②「身だしなみ」を理解しているが、特性によってできないことがある
特性によって“うっかり”服装が乱れてしまったり、そもそも身だしなみが整っていない状態を自覚できなかったりすることがあります。
“うっかり”を防止し、自覚を促すためのサポート方法をお伝えします。
1. 身だしなみのチェックリストを確認する
身だしなみチェックリストは、お子さまの年齢や性別に応じたものにしましょう。
チェックリストの項目は、できるだけ具体的な表現を用いて、お子さまが自分自身の状態を見て、できているかどうかを判断できるようなものにしましょう。
チェックリスト項目例としては「目ヤニや鼻くそがついていない、服にほこりやフケがついていない、シャツが出ていない、ボタンがしまっている、靴下は左右同じ、爪がきちんと切ってある」などがあります。
将来的な自立を見据えたサポートをする場合には、上記に加え「衣服に汚れ・ほつれ・しわがない、靴が磨いてある」など、社会人として求められるマナー(ビジネスマナー)に関する項目を追加するとよいでしょう。
男女別だと「男性:髭の剃り残しがない、ネクタイがまっすぐ」「女性:(校則やTOPにあわせて)髪を結ぶ」などがあります。
チェックリストには、それぞれの身だしなみを整えるときの場所(洗面台、部屋の全面鏡の前など)を明確にしておきましょう。場所が指定されていない場合、人前でシャツをしまったり、鼻をほじってしまったりする可能性があります。
ASD特性の「視野の狭さ」がある場合には、注意を向けられる範囲が極端に狭いことがあるため、顔のパーツごとや身体の部位ごとなど、お子さまに合わせて細分化していくとよいでしょう。
2. 鏡の前での身だしなみチェックする
チェックリストの活用が習慣化できない(ADHD特性の「飽きっぽさ」がある等)場合や、チェックリストがなくとも身だしなみを整えられるようになることを目指す場合には、身だしなみチェックの時間を日常のルーティンに組み込んでいくのもよいでしょう。
最初のうちは、家庭内で鏡を使った身だしなみチェックを練習していきます。全身が映る鏡の前に立ち、お子さま本人の状態を見てもらいながら、直すべき点とどのようにすべきかを保護者の方が指摘していきます。実際に目で見て確認をすることで、理解を促しやすくなります。
家庭内での練習に慣れた後は、学校生活の中でも「家を出る前/昼休み/学校を出る前」など、決まった時間(タイミング)と場所で鏡を見るようにすることで、定期的な身だしなみチェックを習慣化させるようにします。
チェックリストを使う場合にも「鏡チェック」を追加しておくとよいでしょう。
お子さまが自分で身だしなみを整えることができた場合には、都度褒めることがポイントです。
身だしなみを整えることは「できて当たり前」と考えてしまいがちですが、特性のあるお子さまにとっては非常に労力がかかることなのです。
これらの身だしなみチェックを習慣化させるためには、褒めてモチベーションを高めることが必要です。
ASD特性の「感覚過敏」がある場合には、その特性によって、歯磨きやお風呂が苦手、特定の素材の衣服しか着ることができないことがあります。
清潔な状態を維持できない場合には、特性に応じたサポートが必要です。
清潔感が大事だからと言って、無理に歯を磨かせたり、新しい衣服を着せたりすることで、パニックになってしまうケースがあります。
お子さまにとっては耐え難い苦痛となるため、適切なアプローチをとり、段階的に慣らしていくことが必要です。
詳しくは以下の関連コラムをお読みください。
お子さまに合ったサポート方法は、家庭内だけでは見極めるのが難しいことがあります。そんなときに頼れるのが、障害福祉サービスである
・放課後等デイサービス
・児童発達支援
です。
ハッピーテラスでは、お子さま一人ひとりに応じた特性サポートをおこなっています。
自立した社会生活を目指すために
発達障害のあるお子さまは、その特性によって社会性の困難が見られることがあります。
「身だしなみ」は社会における一般常識です。ASDがあると常識を習得しづらい?上手な教え方は|中高生向けでお伝えしたように、一般常識は明文化されていないために、特性のあるお子さまの場合は、理解が難しかったり習得が遅れたりするケースがあります。
本日お伝えした対処法は、保護者の方のもとで生活をしているときには有効ですが、お子さまが社会に出たあとは、お子さま本人が自分自身でできるようにならなければなりません。
段階的に、自分自身だけでできるようになることを目指していくようにしましょう。
大人の発達障害のある方にとっても、身だしなみは困りごとあるあるです。
社会に出てから、「服装や髪型に対して上司に注意を受けた」「職場に何を着ていくべきか分からない」といったお悩みを抱える方は少なくありません。
できるだけ早い段階で「身なりを整えること」「場面に応じたふるまい」の必要性を理解させ、基本的な身だしなみを習得させることが重要です。
具体的な対策方法は、インターネット等で調べればたくさんでてきますが、身だしなみの必要性を理解していないと、注意された理由が分からず、身だしなみに関する情報を調べようともしないでしょう。
なぜ、発達障害の特性によって身だしなみが苦手なのかを、保護者の方自身が理解し、社会に出る前にできる限りのサポートをしてあげることがとても重要です。
ご家庭だけでサポートが難しい場合には、療育を提供する障害福祉サービス「放課後等デイサービス」「児童発達支援」の利用もご検討いただくことがおすすめです。
放課後等デイサービス「ハッピーテラス」、児童発達支援「ハッピーテラスキッズ」では、お子さま一人ひとりの特性に寄り添い、社会的な自立を目指すための支援をおこなっています。
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