ASDのこだわり行動はなぜ起きる?原因と対応を紹介
ASD (自閉スペクトラム症)のあるお子さまにみられる「こだわり行動」の基礎知識と対応についてご紹介します。
\このような疑問にお答えします!/ こだわり行動の原因は?
性格によるものではないの?
どのような行動がみられる?
こだわりをやめさせる方法はある?
どのようなサポートをするべき?
ASDについて詳しく知りたい方は、「自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?【特徴・診断・治療など知っておきたい基礎知識】」をあわせてご覧ください。
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※この記事は2025年2月19日に更新されました
目次
こだわり行動とは
こだわり行動は、ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準のひとつで、他の障害にはあまり見られないASD固有の大きな特徴です。
人・物や場所など特定の対象への非常に強い執着だけではなく、こだわりの対象が変化することを異常なまでに嫌ったり、気に入った同じ言葉や行動を繰り返したりすることなどがみられます。
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こだわりの対象は多岐に渡り、執着の強さも人それぞれです。さらに年齢によって変わることが多くあります。後ほど「年齢別|こだわり行動の具体例」を紹介しますが、まず先に「こだわり行動」のイメージを持っていただくために、代表例をいくつか紹介します。
● 興味関心の偏り:好きな物に熱中しすぎる、ほかのことを受け付けない
● マイルールへの固執:自分の習慣(物の配置・作業のやり方・道順・着る服等をいつも同じにする)を変えられない
● 完璧主義:勝敗・1位・100点に固執し、妥協を許せない
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こだわり行動が、日常生活・社会生活において問題になっていない場合には、ASDの特性によるものではなく、性格や趣味嗜好によるものである可能性があります。
こだわり行動の原因
ASDは先天的な脳や神経系の障害です。こだわり行動は、ASDの脳機能に由来するもので、心理的な要因によるものではないと考えられています。育て方やしつけなどが原因ではないということです。
生まれつきの脳機能に原因があるため、こだわり行動を「なくす」ということは難しいといえます。
脳の特性
こだわり行動に繋がると考えられている、ASDの脳の特性について紹介します。
● シングルフォーカス特性
一度に注意を向けられる範囲が狭く、興味・関心の対象が限定されやすい
● ハイコントラスト知覚
物事を「白か黒か」「0か100か」など極端に捉えがちで、柔軟な考え方が苦手
これらの特性によって、こだわりの対象への非常に強い欲求が現れることで起こります。
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不安の感じやすさ
ASDのあるお子さまは不安を感じやすいと言われています。
不安を軽減させるために「自分が既に知っていること・体験したことがあること」に強い執着をしたり、不安を紛らわすために「自分が気に入った感覚」を得よう(常同行動や自己刺激行動)としたりすることがあります。
過去に叱責をされた経験から失敗やミスを極端に恐れることで「完璧主義」になるケースもあります。
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こだわり行動は「性格」ではない
こだわり行動は「特性」によるものですが、一見「性格」によるものに見えがちで、周囲から理解を得られないことがあります。強制的にやめさせようとしたり叱責したりしても、本人は自分の意思でその欲求をコントロールできないため、大きなストレスやパニックになることが少なくありません。
「やめなければならないのに、やめられない」状況を繰り返し、失敗体験が積み重なることで、自己肯定感の低下やうつなどの二次障害に繋がることもあります。
本来の性格としては「争いを好まない」にも関わらず、こだわりの強さによって他者と衝突することが多い場合に「短気で好戦的な子」と誤解されてしまうことがあります。本人は「ケンカしたい」というわけではないので、周囲からの評価と自分の認識にギャップを感じ、強いフラストレーションを抱えることがあります。
一方で、性格が「短気」でこだわりが強い場合もあります。特性による問題だけではなく、本人の気性の荒さによる影響も相まって対人関係の困難を引き起こすケースです。この場合には、こだわり特性へのサポートだけではなく、感情のコントロールの仕方などを教えることも必要です。
保護者の方が「性格ではなく特性によるものであり、子ども本人にとってもどうしようもないこと」を理解してあげることが大切です。
性格による執着と特性によるこだわりの違い
ASDの特性がないお子さまも、特定の行動(例:指しゃぶり)や特定の対象(例:お気に入りのおもちゃ)への執着が見られることがあります。この「執着」はお子さまの発達や成長に欠かせないものですが、ASDの「こだわり」の場合には発達や対人関係を妨げてしまうことがあります。
執着とこだわりの違い | ||
---|---|---|
執着 | こだわり | |
期間 | 一時的、短期間でなくなる | 恒常的、長期間続く |
変化 | 徐々になくなる | 突然好き嫌いが変わることがある |
成長過程における「執着」の例としては「お気に入りのぬいぐるみを肌身離さなかったが、成長とともに徐々に持ち歩くことがなくなる」などがあります。お子さまが自立していくための発達過程で見られるもので、成長とともに徐々になくなります。
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ASDの特性による「こだわり」の場合には、長期的に継続するだけでなく、社会生活を送るうえで支障となることがあるため、特性に応じた適切なアプローチが必要です。
こだわり行動と類似の行動
ASDのこだわり行動と似た行動について簡単に紹介します。
● 常同行動
感覚的な刺激を自分に向けて繰り返し与え続ける、一見目的や意味のない行動。
体を前後にゆする、回転する、手をひらひらさせるなど単調な身体の動きを繰り返す。
● 儀式(的)行動
何かの行動をするときにセットでおこなう一定の行動。
外に出るときはドアを3回まわす、寝る前は決まった挨拶を決まった順番でするなど、儀式的な行動をおこなわないと次の行動ができない。
こだわり行動の特徴とは
ASDのお子さまにみられるこだわり行動の特徴について詳しく紹介します。
● ある特定の対象(物や状況、ルール等)に強い執着がある
● その対象を一定の状態に保っていたいという強い欲求があり、それが変わること・変えられることに強い抵抗を持つ
● 行動面では反復的な傾向がみられる
これらを分かりやすく「①変えない」「②やめない」「③はじめない」の3つの特徴に分けて解説していきます。
1.「変えない」変化を受け入れられない
自分なりのルールや習慣があり、その変更を受け入れることに強い抵抗を感じることがあります。
少しでもそのルールや習慣が変更されることで、強いストレスや不安を感じたり、パニックになったりすることもあります。
物の配置を変えない、お気に入りの靴がないときは外出しない、決まった道順や日課を変えない
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2.「やめない」とめられない・同じことを繰り返す
一度始めたことを中断できないことや行動の切り替えができない(例:遊び→帰宅、ゲーム→宿題)こと、気に入った遊びや行動を延々と繰り返すことがあります。
おもちゃを全て並べ終わるまでやめない、アニメのシーンを繰り返し見る、洗濯機の回っている水を延々と見続ける
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3.「はじめない」新しいことや環境に対して、拒否反応を示す
新しいことやはじめてのことに対して強い抵抗感を持つことがあります。自分が経験したことのない環境や、見通しの持てない(何が起こるかわからない・想定できない)状況を受け入れることが難しく、その場にいることや参加を拒否したりします。
初めて行く建物に入れない、家以外のトイレに入れない、未経験のゲームに参加しない
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こだわり行動と言えば、マイルールを曲げられない、特定のもの(電車やアニメ等)に異常なまでに執着するなどが代表例としてあげられがちですが、同じことを繰り返す、行動の切り替えができない、慣れない対象を拒否するなどもよく見られます。
年齢別|こだわり行動の具体例
こだわりの対象は一人ひとり異なるため、お子さまによってみられる行動はさまざまです。
今回は「こだわり行動」の代表例を年齢ごとに紹介します。
乳幼児期(0~5歳ごろ)の例
偏食(特定の食材や特定の商品しか食べない、固形物を食べない等)がある
スプーンを使わず手づかみで食べる
特定の服しか着たがらない
特定のアニメや動画の特定部分を何度も繰り返し見る
特定の遊び方(ブロックやミニカーなどを一列に並べ続ける等)を繰り返す
特定の数字やマークなどに執着する
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とくにサポートが必要なのが「食」に関するこだわりです。
栄養不足によって、成長を妨げたり身体の不調につながったりすることがあります。
発達障害の子供の「偏食」|原因とサポート方法の記事もあわせてご覧ください。
児童期・青年期の例
食べるもの、食べ方、食べる順番などのマイルールに固執する
同じ行先に同じ道順で行きたがる
ゲームやテストで1番でなければ気が済まない、勝ち負けに固執する
時間・やることなど、予定通りかつ厳密に行動したがる
イレギュラーに対応できない(振替休日に学校に行こうとする、雨の日にプールに入ろうとする等)
同じ質問を繰り返し、同じ回答を繰り返し求める
関心のある特定分野の話題を繰り返したり、なんでもその分野に紐づけたりする
一度取り組み始めたことが終わるまで、次のことに取り組めない
一番偉い人(学校の中では校長等)の言うことしか聞かないと決める
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これらのこだわりが、学校生活の中での「困りごと」になることが多くあります。
性格だと思い込んで見過ごしてしまうことで、不登校や二次障害につながるケースがあるため、注意深く観察することが大切です。
こだわり行動への基本対応
社会的な自立を目指すときに、こだわり行動が障壁となることがあります。一方で、無理にやめさせようとすることは、お子さまにとって大きなストレスとなったり、やめる意味が分からずにパニックになったりするケースがあります。
お子さまへの適切なアプローチの方法について、こだわり行動による困りごととサポート例とともに紹介します。
段階的に行動を変化させる
「こだわりを無くすこと」ではなく「こだわりとうまく付き合う方法」を考えることがポイントです。こだわり行動を強制的にやめさせるのではなく、こだわりによる「不適切な行動」を「望ましい行動」に徐々に変化させていくためのサポートをおこないましょう。
こだわり行動の特性は、うまく活用することでお子さまの「強み」になることがあります。
● 「1位」に固執する
競争心の強さを褒めつつ、1位をとれなかったときの感情のコントロールについて教える。悔しい気持ちに寄り添いながら、人前では怒りを出さない・大きな声を出したいときは個室に行くなどの対策を一緒に考える。
● 校則違反をしている同級生に強い口調で注意をする
こだわり「ルールを遵守」の良い面を褒めつつ「立場や言い方によって反感を買う」ことを教え、違反に気づいたときは、直接本人に注意するのではなく先生に伝えるなどの対応を教える。
こだわりそのものではなく、こだわりによる困った行動を適切な行動に変えていくことがファーストステップです。
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切り替えるための工夫をする
予期しないことに対して抵抗感や強い不安があるため、スケジュールや行動内容を前もって伝えておくことがポイントです。お子さま自身が「これから自分がやること」のイメージをできるだけ明確に持つためのフォローをおこないましょう。
「行動をやめるタイミング」や「次にするべき行動」が事前に分かっていることで、こだわりからの切り替えがしやすくなります。
● 行動をやめられない(やるべきことを始めない)
事前に行動スケジュール(例:○時までゲーム→○時から宿題)を説明したうえで、タイマーやアラームを使って行動の開始・終了の見通しがつくようにする(時間の経過が視覚的に分かるものがおすすめ)。
● 道順への固執
事前にいつもと違う道順で向かうこととその理由を伝えておく。その際に、その道順が分かる写真や動画などを見せることでイメージが持てるようにする。
行動の切り替えをする「その場・その時」に言うのではお子さまの心の準備ができないので、できるだけ早期に伝えることが大切です。
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慣れるための練習に取り組む
特定の食べ物しか食べない・特定の服しか着ないなど、特定のもの“以外”に対して強い嫌悪感や抵抗感を示す場合には、段階的なアプローチをするのがポイントです。拒否をする背景に、感覚過敏があるケースもあるため、お子さまの状況に応じてスモールステップで徐々に慣らしていくための練習に取り組んでいきましょう。
なぜその練習に取り組むべきなのか、その理由をお子さまに分かる表現で説明することも必要です。
● 特定のメーカーの特定の商品しか食べない
まず、さまざまな栄養を摂る必要性について説明する。こだわりを示すメーカー以外のものを少量準備し、初めは舐める程度・次に一口食べるなど、段階的に量を増やす。段階ごとにゴールを定め、それ以上の挑戦をさせない(例:「一口食べる」がゴールの場合は二口目を食べさせようとしない)ことが大切。食べることができたら、ご褒美として好きなものをあげるなどの工夫をするのもよい。
● 長袖の服を着たがらない
まず、将来的に学校の制服やスーツなど長袖を着なければならない場面があることを説明する。長袖の服が苦手な理由(例:腕がチクチクするのが耐えられない)を聞いたうえで、柔らかい素材・ゆったりとしたサイズ・七分袖など刺激が少ないものから、まずは試着をしてみることからスタートし、感覚過敏への対処法をしながら段階的に着用する時間をのばす練習をする。感覚過敏用のインナーシャツを試してみるのもおすすめ。
感覚過敏は、耐え難いほどの苦痛になることがあります。無理をさせず、ゆっくりとできる範囲で練習に取り組むことが大切です。
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保護者の方たちに聞いてみた「お子さまのできた!」
「こだわり行動」による困りごとのあったお子さまが、適切なアプローチによって「できた!」が増えた事例を紹介します。
「こだわり行動」には適切なアプローチを!
お子さまのこだわり行動は、社会的に不適切だととらえられてしまう「困った行動」に繋がることが多く、ネガティブな部分に目が行きがちです。
一方で、ASDのこだわりは、活かし方次第で将来的に「強み」になることもあります。
● 興味関心のあるものに対し高い集中力を発揮できる
● 決まったやり方やルールを守ることができる
● 妥協せずに取り組むことができる
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「こだわり」を否定せずに受け入れ、将来的に社会に出たときの困難を軽減するためのサポートが何かを考えながら、一つずつ「できる」を増やしていきましょう。
児童発達支援「ハッピーテラスキッズ」放課後等デイサービス「ハッピーテラス」では、お子さまのこだわりに対する段階的なアプローチをおこないながら、「できる」を増やすための療育をおこなっています。
一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
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