発達障害の子どもが「歯磨きが苦手」な理由とその対処法
前回の「発達障害のある子どもが「お風呂を嫌がる」理由とその対処法」の記事では、発達障害の特性による理由とその工夫を紹介しました。子育てをする中で「お風呂」と同じくらい保護者の方を悩ませるのが「歯磨き」です。
今回は、障害特性で「歯磨き」が苦手なお子さまに対するサポートについて紹介をします。
歯磨きを嫌がるお子さまを見て「なぜこんなに嫌がるの?」「小さい子どもの虫歯は親の責任だから…」と悩みを抱える方も少なくないでしょう。
お子さまへの理解が深まると、「こんな理由があって苦手なんだ!」と接し方が分かるようになり、ストレスを軽減させるきっかけになります。
目次
「歯磨きが苦手」なお子さまの特性あるある
「発達障害のある子どもが「お風呂を嫌がる」理由とその対処法」でもお伝えしたとおり、発達障害の特性による困難さは、お子さま一人ひとり異なります。「歯磨きが苦手」と一口に言っても、歯磨きをすること・されることを嫌がる、歯磨きが上手にできない…などさまざまな「苦手」があります。
まずは、お子さまが何に「苦手」を感じているのかを知ることからはじめましょう。
「歯磨きが苦手」の原因となる障害特性の代表例を紹介します。お子さまに当てはまるものがあるか、チェックしてみてください。
障害種別を記載していますが、併存しているケースもあるため、参考までにご確認ください。
【代表例】障害特性と歯磨きが苦手な理由
ASD自閉症スペクトラム障害 ADHD注意欠如・多動性障害 DCD発達性協調運動障害 その他その他の障害 |
感覚過敏(触覚触覚過敏があり、刺激に耐えられない過敏)がある ASD
口の中に歯ブラシが入ること自体を嫌がる、触っているだけなのに痛みを強く感じる、歯ブラシを噛んで磨くのを阻止しようとする、仕上げ磨きの時など顔を触られることを嫌がる。
味覚過敏があり、特定の味が苦手 ASD
歯磨き粉の味が嫌で吐き出してしまう、メントールの刺激が苦手で口に含んでいられない。
完璧主義(こだわりがある) ASD
過度な時間をかけて歯磨きをする。
感覚鈍麻があり、痛みに気づかない ASD
虫歯の痛みや違和感に気づくことができずに発見が遅れる、血が出るまで強く歯茎をこすってしまう。
多動があり、じっとしていられない ADHD
手足をばたつかせてしまう、同じ体制で座っていること・寝ていることができない。
集中力を保つことが苦手 ADHD
全ての歯を磨く前に飽きてやめてしまう。
身体の感覚をつかむことが苦手 DCD ASD
歯ブラシを喉まで入れすぎてしまう、力加減ができない、歯ブラシのゴシゴシ運動(左右に小刻みに動かすこと)ができない。
口周りの機能の発達に課題がある その他
口から水が流れ出る、水を飲んでしまう、うがいができない。
過去の「痛かった・嫌だった経験」がトラウマになり拒否をしているケースと、感覚過敏などの特性によって刺激が苦手なケースがあります。また、両方のケースが重なっていることもあります。
障害特性への工夫とコツ
発達障害の特性を踏まえ、「歯磨きが苦手」を克服させるための工夫とコツを紹介します。
お子さまの状況や発達段階によっては、時間がかかることや効果が見えづらいことがあります。障害福祉サービス(児童発達支援・放課後等デイサービス等)や、歯科医に相談しながら進めることもおすすめです。
終わったあとには必ず褒めてあげることを忘れずに!
良い行動やできることを定着させやすくなります。
ケース:歯ブラシが口の中に入ることを嫌がる
お子さまに合わせたスモールステップで徐々に慣れてもらうことを目指していきましょう。
触れるときや指などをいれるときには「今から●●をするよ」と事前に声掛けをすることがポイントです。
【1】口の中に何かが入っても大丈夫だと理解してもらう
歯ブラシを口に入れることに抵抗感がある場合は、まずは保護者の方の指を入れて「口の中に異物が入る感覚」に慣れてもらうという方法があります。次に歯ブラシを口の中にいれるだけの練習をおこないます。このときは歯ブラシを動かさないようにします。
【2】弱い刺激を与えることで刺激に慣れてもらう
歯磨き用ガーゼなどを使って、歯ブラシよりも弱い刺激を与えてみましょう。
ほほ→くちびる→口の中の順番で、ゆっくりと触っていくことで緊張をほぐすことができます。
【3】刺激に慣れてきたら、歯磨きにチャレンジをしてみる
すべての歯を磨こうとせずに、まずは前歯から慣らしていき、徐々に奥歯まで磨けるようにステップを踏んで練習をおこないましょう。
この他にも、刺激の弱い歯磨きグッズ(ガーゼや指で磨くタイプの歯ブラシ等)や歯磨き粉(お子さま向けの甘い味のもの等)を使ってみることもおすすめです。
ケース:口の周りの発達に課題があり、歯磨きが上手にできない
口(歯・下あご・舌・頬・口蓋などを含む「口腔機能」)の動かし方の練習をおこないましょう。歯磨きの過程の中でどこに苦手があるのかをチェックし、それぞれに応じた練習が必要です。歯磨きトレーニングをこれからおこなうお子さまの場合は、上から順番に練習していくことをおすすめします。
口を閉じる動作が苦手
鼻で息をする練習をしてみましょう。口呼吸から鼻呼吸に切り替えるトレーニングとして「あいうべ体操」(みらいクリニックの今井一彰院長が考案した体操)があります。「あ・い・う・べ」の口の動きをしながら、唇と舌の筋肉を鍛えます。
1セットを10回、1日3回やると効果が見えると言われています。この他に、ガムや風船などを使って「口を閉じる運動」の練習をする方法があります。
できるようになったら、実際に水を含んでみる練習をしましょう。水がこぼれてもいいように、お風呂場などで練習することをおすすめします。
口の中の水を移動させるのが苦手
ほほの動かし方を習得していきます。一気にやろうとせずに、ステップをふみながら練習しましょう。
① ほほを膨らます・すぼめるを繰り返す
② 左右片方ずつほほを膨らませる
③ 片方ずつほほを膨らませながら、右・左に空気を移動させる
口を閉じる・頬を動かす動作を練習する遊びとして「口じゃんけん」があります。グーは「ほほを膨らませる」、チョキは「舌を出す」、パーは「口を大きく開く」です。 できるようになったら、水を含んで、ぶくぶくうがい(頬に水を含んで、歯をゆすぐうがい)を練習してみましょう。
水を吐き出すことが苦手
まず水を含ませ、水を飲んでしまう前に、前かがみになって吐き出す練習をします。
吐き出すときに、舌が出ていないときれいに吐き出せません。「べー」と声をかけることや、先に保護者の方が手本を見せることも有効です。
ぶくぶくうがいができるようになったら、がらがらうがい(顔を上にむけ、喉を洗ううがい)を練習しましょう。それぞれ口腔の動かし方が異なるため、お子さまが混乱しないように、ぶくぶくうがいをマスターしたあとにチャレンジしましょう。
【番外編】がらがらうがいの練習法
こちらもスモールステップでおこなっていきます。できるところまで、無理をさせずに進めていきましょう。
① 水を含まずに、上を向いて「アー」と声を出す練習をする
② 正面を向いたまま、水を含み「アー」と声をだす練習をする(水は口の下側に溜まっている状態)
③ 少量の水を口に含んで上を向く練習をする
④ 水を含んで、上を向き、「アー」と声をだす練習をする
口の周りの動きを習得するためには、シャボン玉・風船・ラッパなどの玩具を使うことも有効です。お子さまが楽しみながら取り組める工夫をしてみましょう。
できるようことが増えたときには、褒めることを忘れずに!
ケース:歯磨きのときにじっとしていられない
まずは全部の歯を磨こうとせずに、部分的でいいので短時間で終わらせて、歯磨きに対して嫌なイメージを持たせないようにすることが大切です。とくに集中力を持続することが難しいお子さまにとって、歯磨きの3分はとても長く苦痛に感じます。すると、「歯磨き=苦痛」というイメージがついてしまって、拒否が起きやすくなります。
歯磨きをすること自体に抵抗感がなくなってきたら、3分間カウントダウンをしたり、時計を見せたりして、「いつ歯磨きが終わるのか」見通しが立つようにすると「ここまで我慢すればいい」と理解することができるようになります。そのようなステップを踏まないで、いきなり歯磨きの完璧にやりきろうとすると、耐えきれずに暴れてしまうことや、大きなストレスや「嫌な体験」としてトラウマになることに繋がりかねません。
上の前歯・下の奥歯など部分ごとに一度休憩を挟むこと、歯磨きの実況中継(歯の汚れがとれたよ、歯の裏側を磨くよ等)をおこなうことなどの工夫も取り入れてみましょう。歯磨きだけがずっと続くのではなく、状況に変化があることが大切です。
楽しい時間にするために、歌いながら遊び感覚で楽しい雰囲気で歯磨きをすることもよいでしょう。歯磨き用の動画を見せることもおすすめです。
我慢ができたり、自分で歯が磨けるようになったり、できることが増えたときには、必ずできたそのタイミングで褒めてあげましょう。
ケース:「やる気」が起きない
歯磨きなどの日常動作をお子さまに覚えさせるときには、フロー通りにはじめから一つずつ動作を教えることが多いと思います。やる気を出させるためには、フローの逆から順番に取り組むことが効果的です。これを「逆行チェイニング(逆行連鎖)」と言います。(正しい流れを学んでほしいときには、フロー通りにおこなう「順行チェイニング(順行連鎖)」が有効です)
歯磨きのフローを細分化すると
- 歯ブラシと歯磨き粉を用意する
- 歯磨き粉を持って、ふたをあける
- 歯磨き粉を歯ブラシにつける
- 歯磨き粉のふたを閉じる
- 蛇口の下に歯ブラシを持っていき、蛇口をひねる
- 蛇口を閉じる
- 歯ブラシを口にいれる
- 右上の奥歯を磨く
…途中省略… - 歯ブラシを洗う
- 蛇口を閉める
- 歯ブラシを棚にしまう
の工程があります。
まずは、「11. 歯ブラシを棚にしまう」だけをお子さまにやらせます。1〜10までは保護者の方がおこないます。歯磨きの最後の工程をお子さま自身がやることで「やった!終わった!」という達成感を自分の力で味わうことができます。
その次には、「11→10. 蛇口を閉める」の2つ、次は「11→10→9. 歯ブラシを洗う」…のような形で、工程の逆から順番にお子さまにやらせることを増やしていきます。
逆行チェイニングは、歯磨きの「やり方」を早く覚えさせるという効果は薄いですが、「やる気」を育てるためには非常に有効です。
感覚過敏などの特性が原因となって、歯磨きが苦手なお子さまには向かないので注意しましょう。「飽きっぽい・興味のないことを面倒くさがる」などのADHD特性のあるお子さまの場合には、ぜひチャレンジしてみてください。
歯医者さんを嫌がるのはなぜ?
大人になっても、歯医者は「できれば行きたくない場所」と苦手意識を持っている方も多いと思います。「歯医者」に対して「怖い・痛い」といったイメージを持っており、歯医者に行くことを嫌がることもよくあるでしょう。
感覚過敏のあるお子さまにとって、「歯医者」には「苦手」がたくさんあります。
- 嗅覚過敏があり、消毒液などの匂いがきつい
- 診察台のライトが眩しすぎて辛い
- 治療器具の立てる音や金属が擦れる音が苦手
- 背もたれが倒れる感覚が苦手
歯科によっては、感覚過敏のあるお子さまへのサポートや配慮をおこなってくれることもあるため、事前に調べておくとよいでしょう。
出来るだけ早期に「習慣化する」ことが大切
子どものころは、保護者の方が注意をしたり、学校で定期健診があったり、虫歯にならないためのサポートを受けることができますが、大人になると自分自身でケアをしなければなりません。子どものころに、歯磨きの習慣化をし、特性への対処法を身につけることが大切です。
大人の発達障害がある方で、歯に関する問題を抱えている方は少なくありません。お子さまと同様の感覚過敏等による苦手はもちろん、「大人ならでは」の悩みがでてきます。例えば、ADHDの特性「先延ばしぐせ」で「歯磨きを後回しにする」「歯医者の予約を忘れる」は、大人の発達障害あるあるです。気付いたときには歯を抜かなければならないほどに深刻化していたという方もいます。
口酸っぱく「歯磨きをしなさい!」と言うことはNGです。「歯磨きが嫌なこと」とインプットされてしまうため、習慣化には繋がりません。習慣化させるためには「歯磨きをすると良いことがある!」とお子さまに実感させることが大切です。習慣化のテクニックはまた別の記事で詳しくお伝えします。
子どもの「歯磨き練習」に苦手意識を持つ保護者の方もいるかと思いますが、将来的な自立を目指すためにも、地道なサポートが必要です。
何度やってもうまくできない、練習をしていたらパニックになってしまった…などお悩みや不安を持つ方も多くいらっしゃると思います。発達障害やその傾向のあるお子さまをサポートする障害福祉サービスの活用をすることで、お子さまに合ったアプローチを知ることができます。
一人で悩まず、まずは相談してみることをおすすめします。
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