漫画で紹介|ASDの子どもを注意するとき言ってはいけない言葉
お子さまを叱るときに使いがちな一般的な「フレーズ」がASD(自閉スペクトラム症)の子どもには不向きなことがあります。
効果が出ないだけではなく、保護者の方への不信感を持ったり、行動が悪化したりするケースも少なくありません。
今回は、NGフレーズを使った3つの具体例を漫画で紹介しながら、なぜ言ってはいけないのか、適切に伝えるためのポイントについて解説していきます。
より分かりやすく、イメージを持っていただくためのTikTok動画もセットでご紹介いたしますので、ぜひ合わせてご覧ください。
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ハッピーテラスを運営するデコボコベース株式会社のTikTokでは、発達障害のある方、そのご家族や周囲の方、発達障害のある方の支援をおこなっている方に向けてお役立ていただける情報発信をしています。

発達障害のあるお子さまへのアプローチ方法については、以下のコラムでも解説をしています。
ぜひあわせてご覧ください。

目次
ASD(自閉スペクトラム症)の特徴
ASDのあるお子さまとの適切な関わり方を学ぶためには、お子さまの障害への理解を深めることが必要不可欠です。障害によってどのような苦手がみられるのか、適切な対応は何かを知ることで、お子さまと上手に向き合えるようになることでしょう。
ASDは、①対人関係やコミュニケーションの苦手 ②こだわりの強さ ③想像力の困難を特徴とする、先天的な脳機能・神経系の障害です。
なぜ、多くの子どもに通用するはずの「叱り方」がASDのあるお子さまに合わないのか。それは、これらの障害による特徴=特性が深く関係しています。定型発達の子どもにあわせた「叱り方」ではなく、ASDの特性に応じたアプローチをおこなう必要があります。
お子さまを注意するときにポイントとなる代表的な特性を2つ紹介します。
文字通りに言葉を受け取る
● 言葉の裏にある意図や省略されている内容を汲み取ることが苦手
● 比喩や抽象的な表現の理解が苦手、言われたままの言葉をそのまま受け取る
よくある注意フレーズに「○○くん!(名前を呼ぶだけ)」があります。お子さまが不適切な行動をした(やってはいけないことをする・言われたことをやらない等)ときによく使うフレーズですが、これも「名前を言っているだけ」と文字通りに捉えてしまうため、返事だけをしたり反応を示さなかったりすることがあります。名前を呼ぶだけではなく、明確に取るべき行動の指示をすることが必要です。

他者視点が持ちづらく、共感性が低い
● 相手の反応(怒りや悲しみ)を汲み取ることが苦手
● 相手がどう感じるか・考えるかを想像することが苦手
叱られたとき、定型発達のお子さまの場合には、保護者の方の反応から感情を察して「悪いことをした」と反省したり「そろそろ爆弾が落ちる!」と焦ったりして、不適切な行動をすぐにやめることがあります。一方でASDのお子さまの場合にはそれを汲み取ることが苦手なため、「怒っている」ということにすら気づけないことがあります。

今回はASDのお子さまあるあるを取り上げましたが、同じASDの診断であっても、特性は一人ひとり異なります。そのため、実際に見られる困りごとやお子さまに合うアプローチの仕方もそれぞれです。
本記事では、多くのASDのお子さまにみられる「よくあるケース」を3つ紹介します。
よくあるフレーズ①「なんでそんなことをしたの?」
お子さまの発言によって火に油を注ぐ状況に陥っていますが、お子さまは「言い訳」をしたつもりがなく、さらに「なんで!?」と矢継ぎ早に言われて混乱しています。
解説&NG理由
● 実際には理由を聞きたいわけではない
「なんで~」はよく使われるフレーズですが、実際には理由を聞くことが目的ではないことが多いのではないでしょうか。一方で、ASD特性のあるお子さまは文字通りに言葉を受け取ることがあるため、「なぜか」という質問に対して理由を説明しています。保護者の方にはそれが「言い訳をした」ように見えてしまっています。お子さまにとっては、「聞かれたことに答えた(正しい対応をした)」にもかかわらず余計に叱られてしまいパニックになっているのです。
「なんで~」は叱るフレーズのあるあるですが、相手を責め立てるだけで行動の改善を促す効果はありません。ストレスをお子さまにぶつけているだけといっても過言ではないでしょう。
● 行動に理由はないため、混乱させてしまう
意図がないケース(注意引き行動によるいたずらや好奇心等)や、特性によるケース(行動のコントロールができない等)の場合など、お子さま本人も「なぜやったのか」が分からず混乱することがあります。これはADHDのお子さまにも当てはまります。
それにもかかわらず理由を問いただすことで「理由も答えられないなんて、自分はダメな人間だ」とお子さまの心を傷つけることに繋がってしまいます。

伝えるときのポイント
● 具体的かつ明確に「適切な行動」を伝える
まず「○○をしてはいけない」やめるべき不適切な行動を分かりやすく伝え、次に代わりに取るべき行動を明確に伝えるようにしましょう。「それはダメ!」のように抽象的な表現ではなく、何が良くないのか・何をすべきなのかを理由とともに説明することが大切です。
● お説教は長引かせない
お子さまを混乱させない表現を使い、お子さまが「適切な行動」を理解できたら、そこでお説教タイムは終了しましょう。保護者の方が感情的になっているときについついやってしまうのが、「あのときも~」「前も言ったのに~」など立て続けに叱ってしまうことです。
「その場」で起こっていないことを指摘することで、お子さまは混乱してしまいます。保護者の方にとっては関連性の高いことであったとしても、かえって逆効果になるので避けるようにしましょう。
悪いことだと分かっているのに、わざと良くない行動をとる場合には「試し行動」であるケースがあります。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
参考動画
@decobocobase これは言わない方が良いそうです☘️ #デコボコベース #福祉 #障害福祉 #発達障害 ♬ オリジナル楽曲 – デコボコベース
よくあるフレーズ②「わがまま言うなら、置いて帰るよ!」
保護者の方は、過剰におびえるお子さまや周囲の様子を見て、慌ててお子さまを連れて帰ろうとしていますが、それに対してお子さまは腑に落ちない表情を浮かべています。
解説&NG理由
● 大きな恐怖心を与えてしまう
定型発達のお子さまに対しては効果がみられることがありますが、文字通りに言葉を受け取る傾向のあるASDのお子さまに対しては避けるべきです。
特性がないお子さまの多くは、「置いて行かれる“かもしれない”」と捉え、「お母さんの言うことを聞けば、お母さんと一緒に帰ることができる」と理解します。
一方で、ASDのお子さまの場合には、「置いて行かれ“る”」と捉えます。「置いて行かれる“かもしれない”」と「置いて行かれ“る”」では大きな差があり、お子さまに大きな恐怖心を与えてしまいます。
● 「嘘をついた」と捉えてしまう
保護者の方にとって「置いて帰るよ」は脅し文句であって実際にはしないため、言うことを聞かなかった場合にも最終的にはお子さまと一緒に帰ると思います。
一方で、先述した通りASDのお子さまは文字通りに言葉を受け止めるため、「置いて帰ると言ったのに、置いていかれていない」=「嘘をつかれた」と捉えてしまいます。ASDのお子さまにとって言行不一致(言っていることと行動に矛盾があること)は「嘘」なのです。
それだけでなく「わがままを言っても置いて行かれることはない」と学ぶことで、不適切な行動がエスカレートする可能性もあります。

伝えるときのポイント
● 現実と合わない表現は避ける
しつけあるあるで「先生に電話するよ!」「鬼が来るよ!」「○○ちゃんに嫌われるよ!」などの脅し文句がありますが、実際にはおこなわれなかったり存在しなかったり、事実と異なる状況が生まれます。
事実と異なることが発覚した時点で、保護者の方が嘘をついたことになります。保護者の方への不信感やパニックに繋がってしまうため避けましょう。
● 冷静な対応を心がける
脅し文句をつい使ってしまう場面として多いのが「言うことを聞かないとき」ではないでしょうか。保護者の方自身も感情的になってしまうこともあると思います。
しかしながら、かんしゃくを起こしているときのお子さまは自分自身の気持ちや行動のコントロールすることができません。その状態で、保護者の方から感情的に叱られることによって、反発したり聞く耳をもたなくなったりしてしまうことがあります。
叱る前に、まずは保護者の方が冷静になって、お子さまを落ち着かせることが大切です。
「保護者の方の言うことを理解しているのに、聞く耳を持たない」という状況が続いている場合には「誤学習」をしてしまっている可能性があります。
詳しくは関連コラムをご覧ください。
参考動画
@decobocobase この言葉はやめたほうが良いそうです☘️ #デコボコベース #福祉 #障害福祉 #発達障害 ♬ オリジナル楽曲 – デコボコベース
よくあるフレーズ③「早くやりなさい!」
保護者の方は堪忍袋の緒が切れてゲームを取り上げていますが、お子さまは急に行動を停止させられてパニックになっています。
解説&NG理由
● 行動の切り替えが苦手
ASDのこだわり特性によって、「行動をやめて、やるべき行動を始める」ことが苦手なことがあります。行動の切り替えの困難はASDのお子さまの多くに見られ、その場で指摘をしても解決できないケースが多いです。
無理に行動を止めさせることでパニックになるケースもあります。
● 曖昧な表現の理解が苦手
「なるべく/できるだけ早く」「そろそろやりなさい」は抽象的な表現であり、ASDのお子さまには非常に伝わりづらいです。これも「文字通りに言葉を捉える」ことによるもので、適切なさじ加減の判断が難しいのです。
さらに、特性によって「過集中」傾向があるお子さまの場合には、ゲームに集中するあまり保護者の方の声が耳に入っていない可能性もあります。
伝えるときのポイント
● 事前にスケジュールを伝える
あらかじめ行動の見通しを持たせておくことが大切です。事前に行動スケジュール(例:○時までゲーム→○時から宿題)を説明したうえで、タイマーやアラームを使って行動の開始・終了の見通しがつくようにするなどの工夫があります。
● 具体的かつ明確な表現を使う
具体的かつ明確に「●時まで」「●分後」など定量的に伝えるようにしましょう。そのほかにも「都合のいいときに」「ちょっとだけ多く」「もう少し頑張りなさい」などの抽象的な表現も、お子さまを混乱させてしまうことに繋がるため注意が必要です。

参考動画
@decobocobase 曖昧な表現が伝わりにくいことがあります🍀#デコボコベース #発達障害 #障害福祉 #福祉 ♬ オリジナル楽曲 – デコボコベース
番外編:「褒め方」「励まし方」のNGフレーズ
お子さまの行動を褒めたり励ましたりするときのポジティブなフレーズにおいても、ASDの子どもに合わない表現があります。
- いつも頑張っているね!
- すごいね!
- 気にしないで大丈夫だよ!
いずれもよく耳にするフレーズかと思います。しかし、ASDのお子さまの場合には、抽象的だったり根拠がなかったりする表現が苦手です。
先ほどの例に沿って詳細を説明します。
”いつも”:いつのことを指しているか分からない、自分としては頑張っていない瞬間もある=いつもであるという認識がないため釈然としない
“すごい”:すごいという表現が曖昧で何を指しているかが不明瞭で腑に落ちない
“大丈夫”:根拠が明確ではない場合に、自分自身が大丈夫だと思えないときには納得がいかない
ポジティブなメッセージを伝えるときにも、具体的かつ明確に理由を説明することが必要です。
根拠のない、理にかなっていない励ましは、かえって不安を煽るなど逆効果になることがあるため注意しましょう。
叱るときだけに限らず、常日頃からASDの特性に応じた「伝え方」を心がけることがとても重要です。

「具体的に・論理的に・冷静に」がポイント
ASDのお子さまと接する中で、「なぜか伝わらない・分かってもらえない」と悩む保護者の方は少なくありません。日々の様子や他のお子さまと比べたときなどに、お子さまに対し違和感を覚え、どうすればよいのか不安になることもあると思います。
誰しも理由が分からないことに不安を感じるものです。逆に言えば、お子さまの特性への理解が深まれば、おのずと不安は薄らいでいくことでしょう。
最後に、ASDのお子さまに正しく伝えるためのコツをまとめます。
具体的に…直感的に理解できる、はっきりと分かる表現を使う
論理的に…理にかなっている、根拠があり筋が通っている説明をする
冷静に…怒りやいらつきをおさえ、感情的な表現を使わない
保護者の方を含めた周囲のサポートをすることは非常に重要ですが、将来お子さまの自立を目指すためには、お子さま自身が「できる」ことを増やすことも大切です。
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