発達障害の子どもの「誤学習」|原因と対策を紹介
療育に関するメディアなどで「誤学習」という言葉を見かけたことのある方も多いのではないでしょうか。
発達障害のあるお子さまは、特性によって「誤学習」をしやすいと言われています。この誤学習によって、問題行動が起こったり、しつけがうまくいかなかったりすることがあります。
例えば、思い込みによる食わず嫌いで「偏食」になる、嫌なことがあると暴力で解決しようとするなどがあります。
今回は「誤学習」の原因と、ご家庭での対策について紹介します。
誤学習とは
「誤学習」と混同されやすいものに「未学習」がありますが、それぞれアプローチ方法が異なります。
未学習
まだ知らない・まだ学んでいないことです。
正しいやり方や対応を知らない状態であるため、適切な方法を教えるアプローチをおこないます。
● スプーンの用途・使い方を知らないため、おもちゃとして遊んでしまう
● 自分の要求を言葉で伝える方法を学んでいないため、泣いたり叫んだりする
誤学習
不適切な行動を正しい行動として誤って理解をしていることです。
過去の経験によって間違った学習をしている状態であるため、適切な行動の学び直しをさせるアプローチをおこないます。
自分にとって都合の良い解釈をしてしまうことで、誤学習に繋がることもあります。
● スプーンでお皿を叩いたとき、保護者の方が笑ったため(喜んだと解釈)、食事中に食器で遊ぶようになる
● 保護者の方に構ってほしくて泣いたとき、自分の相手をしてくれたため、遊んでほしいときに大声で泣くようになる
ASD(自閉症スペクトラム障害)の特性があるお子さまの場合は、一度学んだことに対して過度なこだわりを持ち、(一度覚えた・過去に体験した)不適切な行動が定着してしまうことがあります。これを「過剰学習」と言い、教え直すときに工夫が必要になります。
今回の記事は「誤学習」について詳しく解説していきます。
誤学習の原因
発達障害のある子どもが「誤学習」をしてしまう原因について解説します。
発達障害の特性
発達障害のあるお子さまの場合、特性による困難によって、誤学習をしやすくなると言われています。
誤学習の原因として考えられる特性の例を紹介します。
ASD(自閉症スペクトラム障害)
● こだわり
一度覚えたことの修正がしづらい。誤った行動が定着しやすい。
● 想像力の欠如
相手がどう感じるか、行動によってどんな不利益があるかを考えるのが苦手。文字通りに理解をすることで誤った解釈をすることがある。
● 認知の歪み
物事のとらえ方が極端だったり非合理だったりする(0か100かで判断する、一度起こったことが必ず繰り返されると思い込む、相手の感情を勝手に決めつける等)。
ADHD(注意欠如・多動性障害)
● 不注意・衝動性
早合点(早とちり)や思い込みによって、情報や指示を誤認識してしまう。
過去の体験
「誤学習」は、過去の体験や得た情報によって、誤った知識を持つことで起こります。
誤学習のきっかけとして、特に多い場面と具体例を紹介します。
保護者の方や先生から教わった
適切な行動ではないものの、“大人の都合”による何らかの理由があったとき(急いでいた、早く対応をする必要があった等)にルールから逸脱した行動をとった経験のある方も少なくないのではないでしょうか。
社会生活の中では、状況に応じて多少のルールを曲げることがありますが、発達障害のある子どもを混乱させることに繋がることがあります。
遅刻しそうだったために、エスカレーターを駆け上ろうとした。子どもに「エスカレーターは走ってはいけないよ」と言われたが、(乗り換えに間に合わないため)「急いでいるときはいいんだよ」と答えた。
→「急いでいるときはルールを無視してもよい」と誤学習してしまい、廊下を走ったり、順番を守らずに横入りしたりするようになった
余裕のある日であれば、「ルールはちゃんと守ろうね」と伝えているにもかかわらず、状況が変わったときに場当たり的な対応をしてしまったことで、結果として不適切な行動を教えてしまうことになったのです。
自分にとって良いことが起こった
間違ったやり方であったとしても、「うまくいった=自分の期待すること・自分によって利益のあることが実現できた」という体験をすることで、不適切な行動が定着してしまうケースがあります。
友達Aさんがやっているゲームを自分もやりたかった。「貸して」とお願いしても聞き入れてもらえないため、衝動的に友達を叩いた。Aさんが泣いてその場を離れたため、ゲームをすることができた。
→「叩けば自分がやりたいことができる」と誤学習をしてしまい、物を借りたいときに友達を叩くようになった
言葉の習得が遅れているお子さまに多く起こるケースですが、そうでない場合にも「貸してと言ったのに無視をされた」ときに実力行使をしてしまう(お願いしたのに無視されたから仕方ないと思い込む)ことがあります。
メディア(テレビ、Web動画、マンガ等)でやっていた
発達障害の特性があるお子さまの場合、「現実(実生活)」と「メディアの世界」の区別がうまくつかないケースがあります。
TVのバラエティー番組の「ドッキリ」の企画で、座ろうとしている人の椅子を引いて転ばせる様子をみて、みんなが笑っていた。
→「人にいたずらをすることで、みんなを笑わせることができる」と誤学習をしてしまい、友達の注意をひくために過度な悪ふざけをするようになった
最近では、Web動画コンテンツ(YoutubeやTikTok等)を見るお子さまが非常に増えていますが、迷惑行為をすることで話題になる様子をみて「問題行動をすれば、友だちから人気が出る」と誤学習をして、真似ようとするケースがあります。
発達障害の特性によって、「誤った知識」を身につけてしまうことは少なくありません。
単に不適切な行動に対し、ただ単に注意をするのではなく、理由「なぜ不適切なのか」と代替策「どのような行動をすればよかったのか」をセットで伝えることで、学び直しをサポートすることができます。
誤学習への対処法
誤った知識によって、不適切な行動が定着してしまっている場合には、注意をするだけでは解決しないケースが多いです。
特性に応じたアプローチが必要です。
お子さまの行動を分析する
行動を分析するときには、「行動のきっかけ」「行動(そのもの)」「行動の結果」に分けて考えることがポイントです。行動そのものだけではなく「きっかけ」と「結果」に目を向けるようにしましょう。
「おもちゃを買ってほしいときに暴れてしまう」という問題行動を例に説明します。
①きっかけ:おもちゃ売り場の前を通る
↓②行動:「買って!」とかんしゃくをおこして暴れる
↓③結果:おもちゃを買ってもらえる
保護者の方としては、暴れる子どもを止めようとして「仕方ないから買う」ということをしているのですが、お子さまはこれを「大きな声を出してバタバタすれば、欲しいものを買ってもらえる」と誤学習してしまいました。
その結果、欲しいものを見かけるたびに暴れてしまうという問題行動に繋がったというケースです。
誤学習によって、問題行動が起こっている場合には、行動の“前後”を観察することで、その原因が見えてくることがあります。このように行動を分析したうえで、お子さまの状態や外部環境などに合わせたアプローチをおこなっていきます。対処方法についても紹介します。
いずれも一貫した対応をすることがポイントになります。
対処例1:結果を変える
お子さまが期待している「③結果」を変えることで、誤学習を修正させる方法です。
お子さまが「買って!」と暴れたとしても、無視して買わない(意図的無視)ことで、「暴れても買ってもらえない」「暴れるとママに無視される=自分にとってよくないこと」と学び直すことができます。
もちろん一度では効果が出づらいため根気が必要ですが、何度も繰り返すことが重要です。周囲の視線が気になる気持ちを抑えつつ、無表情でお子さまのほうを見ないことで効果が上がりやすくなります。
対処例2:行動を変える
お子さまの「②行動」を変えて(代替行動)、同じ「③結果」をもたらすことで、誤学習を修正させる方法です。
事前(買い物に行く前)に、「買ってほしいときは、ママにだけ聞こえる声で1回お願いをしてね。買い物が終わるまで静かに待っていられれば、買ってあげる。」と適切な行動をさせるための約束をします。
実現できたときには、約束を守る必要があるのですが、「暴れなくても買ってもらえる」という学習のし直しには効果があります。もちろん、暴れてしまった場合は約束通り買わないようにしましょう。
今回は「結果」や「行動」を変えることで誤学習にアプローチをする方法をお伝えしましたが、問題行動への対応としては「①きっかけ」を変える方法もあります。本ケースで言うと「おもちゃ売り場を通らない」ことが「きっかけ」を変えるアプローチのひとつです。
学び直しをサポートする
前項の「②行動」を変える場合の、アプローチ方法のひとつが「学び直し」です。
誤学習をしていることを学び直すためには、「苦手なこと・嫌なことを我慢する、強いモチベーション」が必要です。
とくにASD特性の「こだわり」があるお子さまの場合には、一度学んだことを変えることに強い抵抗感を示すことがあります。自分が知っていること・やっていること(本人にとっては正しい行動)と違う行動をさせられるのに、大きなストレスを感じるためです。
「苦手なこと・嫌なこと」であってもチャレンジしたいと思わせることのできるご褒美を用意することがポイントです。
「赤い食べ物が食べられない」という苦手なことを例に説明します。
過去のトマトを食べたときに「青臭さ・苦み」を強く感じ、吐いてしまった経験から、「赤い食べ物=青臭い・苦い、嫌いなもの」と誤学習をしてしまいました。
すべての赤いもの=おいしくないものと思い込み、過度な偏食が起こっているケースです。
過去の嫌な記憶が思い出される中で、「食べてみる」チャレンジをさせるためには、強いモチベーションを満たすご褒美(例えば、ゲームを買ってあげる、遊園地に連れて行ってあげる等)が必要です。
食わず嫌いの場合には、「意外と食べることができた」というケースが多いのですが、まずは「食べたくない」という拒否反応を超えなければなりません。
すでに抵抗感を持っているため、思い切ってやらせるきっかけ作りが必要です。
ひとくちでも「我慢して食べられた」ときには褒めることが大切です。ご褒美があるから、やって当然と考えるのではなく、チャレンジができたことを讃えてあげるようにしましょう。
偏食のサポートについては以下のコラムをご覧ください。
関連コラム
誤学習は「防ぐ」ことが大切
発達障害のあるお子さまは、その特性によって「親や先生から言われたことは絶対的に正しい」と思い込む傾向があり、大人が「その場しのぎ」で言ったことが誤学習に繋がることが多いと言われています。
急ぎでいるときやその場の状況などによって、場当たり的な対応をしてしまうことはよくあることではありますが、特性を踏まえ、一貫した対応を心がけることが非常に重要です。
また、子どもは叱られたときに「先生が言ったから」「あのときママはこう言った」と過去の経験を言い訳にすることが多くみられることがあります。本当は誤学習をしているにも関わらず、言い訳だととらえてしまうことで、誤学習に気づかないケースがあるため、見過ごさないように注意しましょう。
お子さまに問題行動がみられたときには、お子さまの様子をよく観察し、①きっかけ ②行動 ③結果 を分析するようにしてみてください。
誤学習が原因である場合には、なるべく早く学び直しをさせる必要があります。
ハッピーテラスでおこなったサポート事例「発達障害の子どもの「誤学習」|実際の事例に沿って解説」も、ぜひあわせてご覧ください。
特性のあるお子さまは「一度経験したことを上書きすること」が難しいことがあります。ご家庭内だけでサポートが難しい場合や、問題行動の原因が分からない場合は、発達障害の専門機関に相談をすることをおすすめします。
児童発達支援「ハッピーテラスキッズ」放課後等デイサービス「ハッピーテラス」では、発達に課題のあるお子さまへの療育だけではなく、その保護者の方へのサポートもおこなっています。
お子さまの特性への理解を深めたい、家庭での療育の方法を知りたい、園・学校との連携について教えてほしいなどのご希望のある方は、ぜひお近くの教室にご相談ください。