注意欠如・多動性障害(ADHD)とは?【知っておきたい基礎知識】
目次
特性の現れ方①:不注意の場合
「不注意」の場合は、小学生頃であれば忘れ物が多い、気が散りやすい、やるべきことをしない・やらないなど、集中力のなさが現れます。
集中できないだけでなく、好きなことになると逆に熱中するあまり、周りから声をかけられても気づかない「過集中」に陥りやすくなることがあります。
中学生~高校生頃になると、遅刻が多くなって時間にルーズだと思われることや、人の話に耳を傾けることができずに先生から注意を受けることなど、周囲からの評価を下げてしまうような状況に陥りやすくなることがあります。
特性の現れ方②:多動性の場合
「多動性」の場合は、小学生頃においては授業中に突然立って教室から出ていってしまったり、じっとしていなければいけない状況で手遊びをしてしまったりと、落ち着きのなさが特性として見られることがあります。突発的な行動を起こしやすいため、何の前触れもなく走りだしたり、突然道路に飛び出したりするなど、周囲の大人も不意をつかれることがあります。
中学生頃になると、成長の過程で、授業中に歩き回ることや状況を弁えずに大きな声を出すことなどはなくなることがありますが、常に体をもじもじ、そわそわと動かすなど落ち着きのなさが見られることがあります。
他にも、順序立てて取り組むのが苦手なお子さまの場合は、さまざまな活動において、周りと同じペースで物事を進められなくなってしまうことがあります。
特性の現れ方③:衝動性の場合
「衝動性」の場合は、小学生頃では、感情や行動の抑制ができない特性が見られることがあり、ちょっとしたことでお友だちや周囲の人に暴言や暴力をふるってしまうなどのトラブルを起こしてしまうことがあります。
また、中学生頃になると、軽はずみな行動をしたり、ルールから逸脱してしまったりと、周囲に与える影響も大きくなることがあります。
また、感情のコントロールが苦手なお子さまの場合は、感情的になりやすく、怒りやすい、興奮しやすい傾向が見られることがあります。
幼児期~中学生・高校生まで、それぞれの年代による症状の現れ方の例を詳しく知りたい方は、下記よりご覧ください。
不注意 | 多動性 | 衝動性 | |
---|---|---|---|
幼児期 |
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|
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小学生頃 |
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中学生・高校生頃 |
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不注意 | 幼児期 |
|
小学生頃 |
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中学生・高校生頃 |
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---|---|---|---|---|---|---|
多動性 | 幼児期 |
|
小学生頃 |
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小学生・中学生頃 |
|
衝動性 | 幼児期 |
|
小学生頃 |
|
小学生・中学生頃 |
|
4.ADHDの特徴は性別によって異なる?
女児についてですが、男児と比べると「不注意優勢型」と診断されることが多いとされています。
女児の方が白昼夢や学力低下、抑うつ感情などが見られやすい傾向にあり、うつや不安障害など精神的な症状が現れやすいことも指摘されています。
一方で、男児については、女児よりも「多動性・衝動性優勢型」が多い傾向にあり、わかりやすく目立った行動上の問題が現れやすいといわれています。また女児は身体的な攻撃性は男児より低いものの、いじめや罵りといった言語的な攻撃性が高いという点も報告されています。
- 多動 – 衝動性男児>女児
- 不注意女児>男児
- うつ・不安障害女児>男児
- 行為障害・反抗挑戦性障害男児>女児
- 身体的な攻撃性男児>女児
- 言語的な攻撃性女児>男児
5.ADHDの治療法はある?
ADHDを含むすべての発達障害は、先天的な脳や神経系の障害であるため、障害そのものを治療することは困難です。
お子さま自身や保護者の方が、お子さまの特性を理解し、一人ひとりにあわせて、生活をしていくためのスキル習得を目指すことが大切です。
ADHDの治療には、主に「薬物療法」と「心理社会的なサポート」があります。
薬物療法
脳内の神経伝達物質であるドパミンなどに作用し中核症状に効果が承認されている薬として下記があります。
- メチルフェニデート徐放錠
(®︎コンサータ) - 脳内の神経伝達物質(ドパミン・ノルアドレナリン)を増やし、神経機能を活性化する働きがあり、不注意・多動・衝動性に効果
- アトモキセチン塩酸塩液
(®︎ストラテラ) - 脳内の神経伝達物質(ノルアドレナリン)を増やし、神経機能を活性化する働きがあり、不注意・多動・衝動性に効果
- グアンファシン塩酸塩
(インチュニブ®︎) - 脳の神経を活発にする働きがあり、不注意、多動、衝動性に効果
心理社会的なサポート
「心理社会的」とは、気持ちなどの精神面や生活環境に起因するものを指し、お子さまの社会生活をサポートするためにおこなう治療法(療育)として下記があります。
- 環境調整
- お子さまの特性に応じて、生活環境を整え、困難さの解消や軽減を目指す
<例>
・集中して作業ができるように、目隠しをする、机の上を片付けるなど、周囲からの刺激が入らない環境を作る
・忘れ物をしないように、持ち物リストを用意する - 行動療法
- ・応用行動分析:お子さまの行動の原因と結果を客観的に捉え、行動を変えることを目指す
・認知行動療法:お子さまの考え方や認知に働きかけ、気持ちを楽にしたり、行動コントロールをすることを目指す
・ソーシャルスキルトレーニング:社会で暮らしていくための対人スキル習得を目指す - 保護者の方への支援
(ペアレントトレーニング) - 子育てに取り組む保護者の方が、お子さまとの適切な関わり方(指導の方法や褒め方など)を学ぶことや、子育てにおける困りごとの解消などを目指す
6.さいごに お子さまへの正しい理解とサポートが大切です。
先ほども少し触れましたが、ADHDは幼い頃は診断が難しいため、発見が遅れる、または発見されないまま大人になってしまうことがあります。
今回ご紹介したADHDのお子さまに見られる行動問題や困りごとは、欲求や行動を制御する脳の機能困難が原因です。育て方や性格によるものではありません。
幼児期は「まだ幼いから仕方ないよね」と周囲から認識され、トラブルや問題になることはあまり多くはなかったとしても、自分の行動に責任が持てるような年代になってくると、ADHDの障害特性からくる「困難さ・苦手」に対して、周囲は「○○ができないなんて!性格に問題がある!」などとネガティブな反応をされてしまうことも少なくありません。お子さまの自己肯定感を下げ、自分に自信を持てなくなることや、二次障害に繋がってしまうことがあります。
ADHDのお子さまへの接し方や、一人ひとり異なる「特性」を正しく理解し、お子さまをサポートすることが大切です。
今回の記事では「症状」として、困難さや苦手についてお伝えをしましたが、ADHDの特性が「強み」となることもあります。好きなことへの探求心や集中力などがプラスに働く例があります。
保護者の皆さまが、お子さまを深く理解し、しっかりと見つめてあげることは、お子さまの将来をよりよくするうえでとても重要です。
「もしかしたら…」と思い当たることがあれば、ぜひ福祉サービスや医療機関に相談してみることをおすすめします。
- 注意欠如・多動性障害(ADHD)の主な症状とは 注意欠如・多動性障害(ADHD)の3つのタイプとは
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