発達障害の子どもの不潔なクセ|爪噛み・鼻ほじり等|原因編
前回のコラム 「身だしなみ」が苦手な発達障害の子どもへのサポート方法は? では、ASD特性の「他者視点の持ちづらさ」によって、身だしなみが苦手となるケースについて紹介しました。
身だしなみと関連性の高い悩みごととして「不潔・不衛生なクセ(人から汚いと思われてしまう行動)」があります。
お子さま本人に「不潔・不衛生である」という自覚がなかったり、「汚いと思われてしまう行動を人前でしてはいけない」ことの理由が理解できなかったりする場合は、いくら注意してもお子さまの行動が改善されません。
今回は、発達障害のあるお子さまの困った不潔・不衛生なクセの原因について分かりやすく解説します。
ご家庭でのサポート方法については、発達障害の子どもの不潔なクセ|爪噛み・鼻ほじり等|対策編 をお読みください。
目次
発達障害がある子どもの不潔・不衛生なクセ
発達障害のあるお子さまの場合、人から不潔・不衛生だと思われしまう行動をとってしまう原因として、考えられるケースには、大きく分けると2つのパターンがあります。
①「衛生観念」がない、もしくは低い・ずれている
②「衛生観念」はあるが、特性によってできない(止められない)ことがある
「衛生観念」とは、身の回りの清潔さや健康維持、病気予防のための生活習慣に対する考え方を指します。
特性によって「衛生観念」を理解するのが苦手なケース、「衛生観念」が一般的な考え方と異なるケース(特定の行為に対してだけ衛生観念が欠ける等)と、「不潔・不衛生な行動(人前ではやってはいけない汚い・衛生的ではない行動)」と理解してしても特性によって行動を止められないケースがあります。
「衛生観念」がない、もしくは低い・ずれているケースには、具体的に以下の例があります。
- 「汚い・不衛生」という感覚が分からない
- 「汚い・不衛生」の基準が一般的な感覚よりも低い・ずれている
- 「人から不潔だと思われる」ことのデメリットが分からない
詳しく解説していきます。
①「衛生観念」がない、もしくは低い・ずれている
ASD特性の「他者視点の持ちづらさ」から、汚い(と相手に思われてしまう)行動であっても「自分にとっては問題がないこと」と捉えてしまっているケースがあります。
例えば、「人前で指をしゃぶる」という問題行動がある場合、本人にとっては「安心するための行動」としてやっていることで、かつ「人からどう思われるか」を想像できないために、やめる理由が分からないケースです。
②衛生概念があるが、特性によってできない(止められない)ことがある
ADHD特性の衝動性、ASD特性の感覚特性・こだわり特性、併発している精神疾患などによって、うっかり不潔行動をしてしまったり、行動を止められなかったりするケースがあります。
例えば、ADHD特性の衝動性がある場合は、人がいるときに鼻をほじるのは恥ずかしいことだと理解していても、鼻のムズムズがどうしても気になり、衝動的に鼻をほじってしまうことなどがあります。
ASD特性の感覚過敏・こだわりがある場合は、靴を履いていることに耐えられず、電車内で靴を脱いでしまうことなどがあります。
「やってはダメ」だと分かっていても、特性によってやりたい気持ちを抑えきれなかったり、こだわりがあったりすることでついやってしまうケースです。
不潔・不衛生なクセをしてしまう原因に応じたアプローチが重要となるため、お子さまの様子を観察しながら、どちらに当てはまるのかを確認していくことがポイントです。
不潔・不衛生なクセの原因
不潔・不衛生だと思われてしまう問題行動の原因について、発達障害のあるお子さまに多く見られるケースを紹介します。
お子さまによって一人ひとり原因はそれぞれですので、あくまでも参考としてご覧ください。
ASD特性 自己刺激行動(感覚特性)
不安や緊張をしていたり、「手持無沙汰(やることがなくて退屈)」であるというストレスに耐えられなかったりするときに、気分を落ち着かせるために自分に刺激を与えることを「自己刺激行動」と言います。とくにASD(自閉症スペクトラム障害)の感覚特性があるお子さまに多く見られます。
例えば、爪や腕を噛む・指をしゃぶる・大きな声を出す・自分の頭を叩くなどの行動がみられることがあります。
不適切な行動と分かっている場合でも、自己刺激を与えずにはいられないケースがあり、無理に行動を止めさせられることでパニックを起こしてしまうことがあります。
ADHD特性 衝動性
ADHD(注意欠如・多動性障害)の特性「衝動性」があるお子さまの場合、人前でやることが不適切だと理解をしていても、自分の行動をコントロールできないことがあります。
社会性が高い(他者との関わり方を理解している)お子さまの場合、「人からどう思われるか」を気にしつつも、行動を抑制できないことによって、結果的に社会性が低いと周囲に思われてしまうケースや、行動をコントロールできない自分自身に対して自己嫌悪に陥るケースがあります。
例えば、友人たちとの会話で他の同級生の体臭に関する話題があがったときに「自分も臭いかも?」と気になってしまい、人前で臭いを嗅ぐという行動がよくないと分かっていても、「自分の臭いが気になる!」という感情が強く勝り、結果として自分の臭いをこっそり嗅ぐという不潔な行動をしてしまうことがあります。
ASD特性 他者視点の持ちづらさ
「身だしなみ」が苦手な発達障害の子どもへのサポート方法は? でもご紹介をしたとおり、ASD(自閉症スペクトラム障害)の特性「他者視点の持ちづらさ」がある場合、相手の気持ちや考えを想像することに困難がみられることがあります。
この特性がある場合は、自分の不適切な行動が人に不快感を与えることを理解しづらいケースがあります。この特性だけで「不潔・不衛生なクセ」をするというよりは、そのほかの原因と掛け合わさることがあります。
例えば、他の生徒もいる教室内で服をまくって汗を拭こうとする行動をとった場合に、先生から止められると、注意を受けた理由が分からなかったり、反発してしまったりすることがあります。自分にとっては必要な行動であり、相手の気持ちを汲むことが難しいためです
ASD特性 場面理解の苦手
ASDの特性「場の雰囲気の読み取りや想像の困難」がある場合、場面や状況に応じた振る舞いができないことがあります。
例えば、給食の時間に爪を切ってしまうことがあります。爪を切ること自体は当たり前の行動ですが、それが「自宅外かつ食事中という場面では不適切」という判断ができないためです。
その他
ASD、ADHD以外の障害や疾患が原因となることもあります。
チック、精神疾患
発達障害のひとつである「チック」や、発達障害の二次障害、併発しやすいと言われている精神疾患によって、不適切な行動がみられることがあります。
● チック(チック症)
本人の意思とは関係なく、特徴的な運動・発声が繰り返し起きる疾患です。
チックにはいくつか種類がありますが、不潔だと思われてしまう可能性がある行動の例として以下がみられることがあります。
・においを嗅ぐ
・人や物に触る
・汚い言葉・卑猥な言葉を発する
● 異食症
食べ物以外のものを食べる摂食障害のひとつです。2歳を過ぎてから継続的に症状が見られる場合に、異食症と診断されることがあります。
とくに、毛髪や土、ほこりなどを食べるケースが多いと言われています。
知的な遅れ
知的な遅れがみられる場合、「衛生観念」の理解が難しいことがあります。
また、自分の行動とそれによってもたらされる結果の関係=因果関係が理解できないこともあります。そのために、不潔・不衛生とされる行動をとったときに「なぜしてはいけないのか」が理解できないのです。
例えば、性器いじりを「感触がおもしろい・気持ちがいい」からと人前でやってしまうことがあります。本人としては、おもしろいから・気持ちがいいから触っているために、なぜ叱られるのか理解できないケースです。
「良くない行動」だと理解したうえで、あえてやっている様子(保護者の方の反応を見ている等)がみられる場合には、「試し行動」である可能性も考えられます。
詳しくは、発達障害の子どもの「試し行動」。問題行動への対応は? のコラムをご覧ください。
「できて当たり前」と考えないことが大切
指しゃぶりや落ちたものを食べることなどは、小さなお子さまに多く見られる行動であるために、「なぜ、まだ直らないの?」と焦りを感じている方も多いのではないでしょうか。
特性のないお子さまの場合には、社会生活の中で「この行動はしてはいけない」「人前でやったら恥ずかしい」と理解をすることができ、成長過程の中で自然と衛生観念を身につけられることが多いです。
そのために「ほかの子はできているのに、うちの子だけできないのはなぜか」と不安になる保護者の方が多いのです。
発達障害があるお子さまの場合は、その特性によって「普通だったらやらない」と思われてしまう不適切な行動をとってしまうケースがあります。不適切だとされる理由が理解できなかったり、どうしても止められなかったりすることがあるためです。
お子さま本人だけでは解決できない「どうしようもないこと」なのです。保護者の方が、お子さまの特性を理解してあげることが何より大切です。
不潔・不衛生なクセのご家庭でのサポート方法は、発達障害の子どもの不潔なクセ|爪噛み・鼻ほじり等|対策編 の記事をあわせてお読みください。
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