自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?【知っておきたい基礎知識】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、人との関わりやコミュニケーションなどの社会性の障害や、想像力の弱さ、過度のこだわり、感覚特性などを主な特徴とする障害で、発達障害のひとつです。発症の要因については完全には解明されていません。
発達障害について詳しく知りたい方は「発達障害とは」をご覧ください。
どんな障害なの?診断基準やチェックポイントはあるの?年齢ごと、性別ごとに違いはあるの?など、ご質問を多くいただく内容にそって概要をまとめました。
目次
1.自閉症スペクトラム障害(ASD) 主な症状とは?
自閉症スペクトラム障害の主症状として、以下の4点があげられます。
主な症状①:
人とのかかわりや、コミュニケーションに関する障害
主な症状②:
他者の視点(人がどう感じるか・どう考えるか)、場の雰囲気や文脈(暗黙のルールや、言葉や文章に含まれていない意図等)などの読み取りや想像の困難
主な症状③:
過度のこだわりや興味関心の偏り、反復的な行動
主な症状④:
感覚が過度に過敏または鈍感
正しい理解がされないと「自分勝手」「空気が読めない」「性格が悪い」などとネガティブな印象を持たれてしまいかねません。あくまでも症状による「苦手」であり、性格やしつけによるものではないことを保護者の皆さまはもちろん、お子さまと関わる周囲の方が理解することが大切です。
これまでは高機能自閉症、アスペルガー症候群など、さまざまな類型がありましたが、改訂されたアメリカ精神医学会による診断基準「DSM-5」においては、自閉症の特徴とはそれぞれを分類するものではなく、自閉症を核とする連続体(スペクトラム)として捉えるようになったことで類型は廃止されました。
「連続体(スペクトラム)」という考え方がされるようになってから、自閉症の特徴は、全く傾向のないケースからはっきりと症状がみられるケースまで連続しており、明確に境界を区別できないとされています。
境界が区別できないのに、どのように診断がでるの?と疑問を感じている方も多いと思います。
次に、診断基準について説明しましょう。
2.自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断基準とは?
アメリカ精神医学会による診断基準「DSM-5」では、診断基準は以下のように定められています。
AからEまでの大きく分けて5項目ありますので、順番にご紹介しましょう。
A:複数の状況において社会的コミュニケーション及び対人的相互反応における持続的な欠陥
他者との関わりやコミュニケーション面についての診断基準として、以下の3つがあります。
「DSM-5」では難しい表現が多く、ぱっとイメージが付きづらい方も多いと思います。「欠落」や「欠陥」という言葉が使われていますが、「苦手」や「不得意」に置き換えると理解しやすくなります。
簡単にいうと、人とうまく関われない、人の気持ちがわからない、空気が読めない、会話が苦手などを指します。
- ①相互の対人的、情緒的関係の欠落
「対人的関係」とは自分以外の他者との関わり、「情緒的関係」とは感情や気持ちのやり取りのことです。
つまり、他者と気持ちのやり取りをすることが苦手ということです。 - ②対人的相互反応で非言語コミュニケーション行動を用いることの欠陥
「対人的相互反応」とは、他者の気持ちや感覚を自然に読み取る能力のことで、いわゆる「共感能力」のことです。「非言語コミュニケーション」とは、言葉を使わないで、身振り手振り、表情や顔色、距離感や視線から感情や気持ち読み取るやりとりを指します。
つまり、言葉ではっきりと言われないと相手の気持ちが分からない・読み取れないということです。 - ③人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥
「人間関係の発展」とは、他者との仲を深めることと考えると分かりやすくなります。
つまり、他者と仲良くし続ける方法が分からないということです。
B:行動や興味、または活動の限定された反復的な儀式
行動、興味の限定、感覚の過敏さ、こだわりなどについての診断基準として、以下の4つがあります。
こちらも難しい表現が多いため、例をあげて補足します。
簡単にいうと、こだわりの強さ、「習慣」や「マイルール」と異なることへの抵抗感、決まったもの(音・におい・感触など)への苦手などを指します。
- ①常同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話
例えば、何度も繰り返し手をたたく・指をはじく、ものを一列に並べるなどの単調な行動を好む、耳にした言葉のオウム返しをするなどが実際の症状としてみられます。 - ②同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な行動様式
例えば、ある場所に行くのに同じ道順にこだわる、いつも同じ服しか着たがらない、好きなアニメのセリフを親に繰り返し言わせたがるなどが実際の症状としてみられます。独特な言い回しもこれに入ります。
自分のルールやルーティンに変更があるとき、習慣としている行動ができなかったときには、強い拒否反応を示し、場合によってはパニック状態に陥ることがあります。 - ③強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味
例えば、電車が異常に好きでそれ以外のものへの興味が非常に薄い、好きな友だちや先生に他の友だちを近づけないようにするなどの過度な執着を示すなどが実際の症状としてみられます。特定の対象(例えば鉄道の時刻表やアニメのセリフなど)に対し、過度に固執した興味を示すことです。 - ④感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味
例えば、人工的な(香水など)の匂いが極端に苦手、蛍光灯の明かりが苦手、衣類の肌触りに耐えられない、特定の色の建物に異常に興味を示すなどが実際の症状としてみられます。
C:症状は発達早期に存在してなければならない
自閉症スペクトラムは、ADHDと比較しても幼児期からその症状が明らかになりがちです。
最初は言葉の遅れが気になるケースが多く、そのあとに「目が合わない」「同じ行動を延々と繰り返す」などの特徴が気になりはじめることがあります。年齢ごとの特徴は後ほど説明します。
生まれつきの脳の機能障害であるため、後天的に症状が生じることはありません。
D:その症状は、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている
先述の「こだわりの強さ」などは、お子さまによっては、障害による症状としてではなく、もともとの性格によって似たような行動をとることがあります。「几帳面・頑固な性格」といえる範囲内で、社会生活に問題が生じていない程度であれば、診断基準には該当しません。症状により、お子さま本人や周囲の人が明らかに困っている状況で診断されます。
E:知的能力障害、または全般的発達遅延ではうまく説明できない
これらに似た症状は知的な発達の遅れがある場合にも起こってくることがありますが、知的な発達の遅れがないのにこのような症状が起こっている、または知的な遅れによる症状とは似ているが違いがあると判断される場合に診断がつきます。
診断年齢を受けた年齢でも最も多かったのが、3歳であると報告されています。幼稚園就園前後、もしくは小学校就学前後に診断を受けるケースが多いようです。
診断基準の内容をもとに、症状をまとめるとこのような内容になります。
社会的コミュニケーションの障害 |
対人相互作用の困難
|
対人コミュニケーションの困難
|
---|---|---|
限定的な興味常同/反復的な行動 |
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社会的コミュニケーションの障害 |
対人相互作用の困難
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対人コミュニケーションの困難
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限定的な興味常同/反復的な行動 |
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3.年齢ごとに自閉症スペクトラム障害の症状の現れ方に違いはある?
障害による特徴のことは「障害特性」や「特性」と呼ばれます。
もっと具体的にわかりやすく自閉症スペクトラム障害を理解するために、お子さまの年齢ごとによって現れる「障害特性」の事例についてご紹介していきたいと思います。
障害特性は十人十色で、すべてのお子さまに当てはまるものではありません。また特性がみられる時期(年齢)にも個人差があるため、「例」としてとらえてください。
乳幼児期(0歳~2歳)、幼児期(3~5歳)にみられる特性
発達の経過で下記のような特徴がみられるようになり、他のお子さまと比べて何か違う、何となく気になる、といったことが、目立ち始めるようになります。
発達の経過と特性
- ~6か月頃まで
・笑顔や楽しむような表情が乏しい
・視線があいにくい - ~9か月頃まで
・微笑みかけても反応が乏しいなど、笑顔や他の表情などの共感が乏しい - ~12か月頃(1歳)まで
・喃語(なんご・乳児期の赤ちゃんが発する二つ以上の音からなる声、あうー、あぶぶぶなど)が乏しい
・指さしや手を振るなどの身振り手振りがほとんどみられない
・名前を呼ばれても振り向かない - ~16か月頃(1歳半)まで
・ほとんど発語がみられない - ~24か月頃(2歳)まで
・繰り返しや模倣を除き、有意語(意味のある言葉、パパ・ママ・ワンワンなど)、2語文(単語と2つ組わせる、ママとって、ワンワンいたなど)がほとんどない