ASDがあると常識を習得しづらい?上手な教え方は|中高生向け
社会のルールやマナーを習得することに課題があるお子さまは少なくありません。
ASD(自閉症スペクトラム障害)の特性に、明文化(はっきりと言葉や文章にする)されていないことが理解できない、場の空気を読むことや人からどう思われるかを考えることが苦手というものがあります。
これらの特性がある場合、「一般常識」=「社会において“当たり前”とされているが、明文化されていない知識」を日常生活の中で身につけづらいことがあります。
小学生くらいまでのお子さまの場合、周囲の大人が指摘をしてくれることがありますが、中高生になってくると、とくに「一般常識」に関する注意を受ける機会がぐっと減ってしまいます。学校生活だけで習得をすることが難しい場合には、保護者の方のサポートが必要です。
発達に課題のあるお子さまの支援をおこなう障害福祉サービス「放課後等デイサービス」では、将来の自立を目指すために必要な知識の習得をサポートしています。
目次
ASDの特性とは
ASD(自閉症スペクトラム障害)の特徴のひとつに「社会的コミュニケーションの障害」があります。どのような特徴があるのか、具体的な例を紹介します。
● 相手の気持ちや場の雰囲気を読み取れない ● 言葉以外の表現を理解することが苦手 ● 自分の行動が不適切であることを理解できない ● 適切にふるまうための行動の調整が苦手
これらの特性が、「一般常識」などの社会的なルールやマナーが習得しづらい原因となっていることがあります。
知っておくべき「一般常識」は年齢に応じて変わってくるため、今回は、中学生・高校生が知っておくべきと一般的にされている社会のルールやマナーの例とともに、詳しく説明していきます。
ASDについて詳しく知りたい方は、自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?【知っておきたい基礎知識】をご覧ください。
明文化されていないこと、場の雰囲気を読み取ることが苦手
直接的な言葉にされていないこと、相手の発言の意図、周囲の表情や反応などを読み取ることが苦手という特性がある場合、「暗黙のルール」を理解することや、その場の雰囲気を察して行動をすることが難しいことがあります。
例えば、学校生活の中では、小学生のころまでは年齢を問わずに平等に接してきたのに、中学生になったとたんに上下関係が生まれて「先輩には敬語を使う」「後輩が後片付けをする」などの「暗黙のルール」が一般的とされることがあります。
学校社会において“当たり前”とされているものの、校則のように明文化されていないため、この特性があるお子さまの場合には理解ができないのです。
また、そのルールを人から教えられたとしても、本人にとっては「年齢が変わっただけ」であり、納得できる理由ではないために、「なぜ従わないといけないのか」の理解できないことがあります。
さらに、そのルールに反した行動をしたときに、先輩がムッとした表情をしたり、その場の雰囲気が悪くなったりすることにも気づくことができないケースもあります。
日常生活の中では、無料配布されているものを必要以上にとらない、エレベーターや電車では降りる人を優先するなどの「一般常識」とされるルールやマナーが世の中には多くあります。
中高生くらいになると保護者の方の同伴無しで行動をする機会が増え、誰からも注意を受けないために、場にふさわしい対応ができないことがあります。
中高生くらいの年齢になると、「空気を読むこと」「相手の顔色をうかがうこと」がコミュニケーションにおいて求められることが増えてきますが、特性によりそれができないことがあります。
クラスや部活に馴染めないことで、お子さまが自信を失ったり学校を行き渋ったりすることにも繋がりかねません。学校側にサポートを求めることも検討してみましょう。
他者視点を持つことが苦手
相手の立場になって物事を考えることが苦手という特性がある場合、他者の気持ちや状況を踏まえずに発言や行動をとってしまい、悪気なく相手を傷つけたり不快にさせてしまったりすることがあります。
例えば、身だしなみを整えることが苦手というのはASDのお子さまあるあるです。身だしなみは他者への配慮ですが、入浴や歯磨きをせずに不潔であったり、服装や髪の毛が乱れていたりしても、「自分にとっては問題がない」ことであるために「やる意味が分からない」と考えてしまいます。
相手を傷つけるような失言をしてしまうこともあります。他者の気持ちを想像することができないために、体型や見た目に関することを直接的な表現で言ってしまったり、多くの人が恥ずかしいと感じる(下着が見えている、鼻毛が出ている等)ことを人前で指摘してしまったりすることがあります。
中高生になると、他者視点を持つことの苦手さが性的な問題につながってしまうケースもあります。
詳しくは、発達障害のあるお子さま向け|性教育のススメ【基礎知識編】の記事をご覧ください。
「暗黙のルール」や「一般常識」は、誰かに教わったり本を読んで勉強したりするというよりは、社会生活を通して自然と身につけたという方が多いのではないでしょうか。
ASD特性のあるお子さまの場合には、守らなければならないルールを「明確に伝える」「(本人が理解できる表現で納得するまで)理由を説明する」ことが必要です。
周囲が特性への理解がない場合、「なぜこんなに常識外れのことをするの?」とネガティブにとらえられてしまうケースがあるため、保護者の方がフォローをすることも大切です。
ご家庭でのアプローチだけでは難しいケースもあるため、学校や障害福祉サービス等に頼ることも有効です。
学校・障害福祉サービスとの連携については、発達障害のあるお子さまへの合理的配慮【事例紹介】 をあわせてご覧ください。
支援事例紹介
社会のルールやマナーの理解が苦手な子どもへのサポート方法を、具体的なケースに沿って紹介します。
ケース① 授業中に帽子を脱がない
ケース詳細
視覚過敏があり、その対策として小学生のころは常に帽子の着用をしていた。中学校入学時に合理的配慮として、直射日光が当たらない席配置にしてもらっており、教室内では帽子をかぶらなくても問題はない。
「室内では帽子を脱ぐ」というマナーを教えるために、学級担当から「この席なら帽子がなくても目が痛くないよね。室内では帽子を脱ぐほうがいいよ」と伝えたが、「私はかぶったままで大丈夫」との回答があった。
サポートのポイント
子どもにマナーを教えるときに「○○のほうがいいよ」と説明をする方も多いですが、ASD特性がある場合には、その言葉の裏にある「○○をすべきである」を理解できないことがあります。
今回のケースでは学級担当からの声がけを「単なる提案」だととらえているため、「自分はこれでいい」という回答をしています。
● 「室内では帽子を脱ぐ」というルールを明確に伝える
● 「室内で帽子をかぶる」ことが、失礼な行動=マナー違反であることを説明する
● マナーを守るメリットが分からない場合は、「社会では多くの人がそうしている」「マナーがないと人から嫌われることがある」など、お子さまが理解できる言葉で説明する
● 視覚過敏によって帽子をかぶる必要がある場合には、「着用許可をとって、許可された場合はかぶってよい」というルールを設ける
ケース② 相手が傷つく発言をしてしまう
ケース詳細
一般的に「人に言うべきではない」とされることが理解できずに、ふくよかな人や毛髪の乏しい人に対して暴言と取られてしまうような発言をしてしまう。
テストの点数や体重など「人には言いたくないこと」が理解できず、答えることを嫌がっている同級生の様子をうかがえずにしつこく質問をしてしまう。
保護者の方から「人が傷つくことは言ってはダメだよ」と注意をしたものの、「自分なら言われても傷つかない」と行動を変える気がない。
サポートのポイント
相手の立場なって考えることが苦手であるために、他者の気持ちを想像することができないことがあります。子どもが悪口を言ったときに「○○さんの気持ちになってみようね」と注意をしても、特性により理解が難しいのです。
また、抽象的な表現が苦手な特性のあるお子さまは、「人に言うべきではないこと」が具体的にどのようなことを指すのかが理解できないケースがあります。
● 「人に言うべきではないこと」の具体例を明示してルールにする
● ルールを守る理由を、「相手が嫌な気持ちになる・恥ずかしいから」など他者視点ではなく、「自分(お子さま)が守れたほうがかっこいいから・守れないと悪者になるから」などお子さま視点になって伝える
● 衝動的に発言をしてしまう(ADHD特性がある)場合には、どうしても言いたくなったら紙に書くなどの代替案を提案する
このほかに、ASD特性のあるお子さまの場合、「時と場所」や「相手と場面」にあった適切な行動をすることが苦手なケースがあります。「式典(卒業式や始業式・終業式など)のときは正装をする」「公共交通機関に乗っているときに食事をしてはいけない」「目上の人には敬語を使う」などです。
お子さまの発達段階や障害の状況によってさまざまですが、年齢に応じた「一般常識」を都度教えていくようにしましょう。
「一般常識」など社会でのルールやマナーは、明文化されていないことが多く、教わる機会がないまま大人になってしまうケースもあります。
また、機会があったとしても、教える側が「暗に察しなければならない表現」を使ってしまいがちです。
お子さまの将来的な自立を目指すためには、社会に出る前に、「社会において“当たり前”とされているが、明文化されていない知識」を習得させることが重要です。
「○○をしたら嫌われる・好きになってもらえる」「将来仕事に就けない」など断定的な言い方は避けましょう。実際にそうならなかったときに「保護者の方が嘘をついた」ととらえられてしまうリスクがあるためです。
「○○になってしまうことがある」のような言い回しがおすすめです。
特性に寄り添ったサポートが必要
年齢を重ねると年相応の「一般常識」が身につくのが当たり前だと思っている方も少なくありませんが、今回ご紹介した通り、ASDの特性のあるお子さまの場合には「自然に身につける」ことが難しいことがあります。
「一般常識」とは、社会生活上のルールであり、社会性に課題のあるASDの特性があるお子さまには理解がし難いのです。
社会で「当たり前」とされていることであっても、本人にとっては理解できないことであるのを、保護者の方が分かってあげることが大切です。
具体的に「何をしなければならないのか・してはいけないのか」とその理由を明確に伝えながら、お子さまの理解に合わせて教えていくようにしましょう。
社会でのルール・マナーの習得が遅れることで、他者から「常識がない人」と非難されたり、社会で浮いてしまったりすることがあります。お子さま自身に悪気はなく、なぜ社会に馴染めないのかが分からないことで、自己肯定感が下がってしまうことや、他者とのかかわりを絶とうとしてしまうことに繋がりかねません。
ご家庭だけでサポートが難しい場合には、療育を提供する障害福祉サービス「放課後等デイサービス」の利用もご検討いただくことがおすすめです。
放課後等デイサービス「ハッピーテラス」では、お子さま一人ひとりの特性に寄り添い、社会的な自立を目指すための支援をおこなっています。
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