発達障害の子どもの「誤学習」|実際の事例に沿って解説
発達障害のあるお子さまは、その特性によって「誤学習」をしやすいと言われています。
誤学習はなるべく早期の「学び直し」が必要です。
今回は、ハッピーテラスで実際におこなった発達障害のあるお子さまへのサポート事例を紹介します。
前回のコラム「発達障害の子どもの「誤学習」|原因と対策を紹介」を事前に読んでいただくのがおすすめです。
【年齢別】実際におこなった支援事例
誤学習へのサポート事例を、実際に取り組んだ対処法とともに紹介します。
年齢(発達段階)ごとに、誤学習によって起こっている問題やアプローチ方法が異なります。
今回紹介する事例は、「育児のお悩みあるある」ですが、お子さまによって、原因と対処法が変わることがあります。
参考としてご覧ください。
Aちゃん(未就学児・4歳)のケース
保育園のお昼寝の前に、周りにいる子どもにキスしてしまう
原因
夜寝る前に保護者の方の頬にキスをする(おやすみのキス)が習慣となっており、
①きっかけ:寝る時間になる
↓
②行動:頬にキスをする
↓
③結果:保護者の方が喜ぶ
という過去の経験から「寝る前には、頬にキスをするもので、キスをすると相手は喜ぶ」と誤学習をしていた。
そのため、保育園でのお昼寝のときにも、周囲にいた児童にキスをしていた。
対処法
①きっかけ に注目し、同じ「寝る前」でも、「家で寝るとき」「保育園で寝るとき」は場面が違うことを教え、キスをするのは「家で寝るとき」のみであることを伝えた。
年齢によっては、性教育(関係性のない人にキスをしてはいけない、キスは性的な行動と受け取られることがある等)をすることもあるが、今回のケースではお子さまが理解できないため、「その行動をする場面」が限定されることを教える対応をおこなった。
未就学児のお子さまによくある行動ですが、特性がないお子さまの場合には、先生や周囲の子どもの反応を見たときに「よくない行動=やめたほうがいい行動」と察することできるため、自然とやらなくなることが多いです。
一方で、発達障害のあるお子さまの場合には、雰囲気や相手の反応を察することが苦手なため、明確な言葉で教える必要があります。
Bくん(小学校5年生・11歳)のケース
場面を問わず(授業中など)、あるお笑い芸人Aのギャグをやり続けてしまう
原因
Bくんはもともと「人を笑わせたい」という想いが強かった。芸人Aは非常に人気があり、TV番組でも笑いをとっていることから、真似をすれば自分の期待する反応が得られると思っており、
①きっかけ:人を笑わせたいと思った
↓②行動:家族にギャグをやって見せた
↓③結果:家族が笑った
という過去の経験から、「芸人Aのギャグをすれば笑ってもらえる」と誤学習をした。
さらに、発達障害の特性により、「場をわきまえること(TPOを意識すること)」や「周囲の反応を読み取ること」ができず、授業中などの不適切な場面でギャグを繰り返してしまった。
対処法
①きっかけ に注目し、「場面のルール」を設定した。放課後デイサービスでの小集団トレーニング中に、「Bくん、ボケて!」とふられたときにだけ、人を笑わせようとしてもいいというルールを設けることで、ギャグをやってもいい場面を明確にした。
Bくんの行動の目的である「人を笑わせたい」であるため、それが許される場を作りながら、「やっていいときとだめなとき」を理解するためのサポートをおこなった。
③結果に注目をしてしまいがちですが、結果を「反応しない(意図的無視)」にすることは実は難しいです。クラスメイトである子どもたち全員の反応をコントロールすることは難しく、一人でも笑ってしまう子どもがいた場合、Bくんの「笑わせたい」という目的が達成されてしまい、効果がなくなってしまうためです。
ご家庭でも同様で「学校で笑ってもらえなかったとしても、保護者の方が笑った」となると、不適切な行動が止まらなくなってしまうことがあるため、注意しましょう。
Cさん(高校2年生・17歳)のケース
Web動画コンテンツのコメント欄に攻撃的な書き込みをしてしまう
原因
ネットの世界にのめり込む傾向があり、
①きっかけ:Web動画コンテンツを見た
↓②行動:コメント欄に過激な書き込み(誹謗中傷)をした
↓③結果:ネット上で称賛された
という過去の経験から、「過激なことを書いて人を非難すると、周囲が讃えてくれる」、またそれが「周囲が賛同している=正しいこと」と誤学習をした。
ネット上では、良くも悪くも過激な書き込みをしたときには反応があることが多く、反応を受けることで自分に注目が集まるという満足感を得てしまい、やめられなくなってしまっていた。
対処法
②行動に注目し、過激(ネガティブ)な書き込みではなく、良い(ポジティブ)書き込みをするという「代替行動」をするためのサポートをおこなった。
同じ③結果をもたらすことが必要となるため、良い書き込みへの反応が集まるところまで寄り添った。
強い思い込みを1度の経験で変えることは難しいため、良い書き込みをする→書き込みへの反応を見て「ポジティブなコメントでも評価が得られる」経験を繰り返し、積み重ねていった。
一般的にネット上では、ネガティブな書き込みへのほうが反応を得られやすいため、代替行動の成果を感じることが難しいことがあります。
その場合には、①きっかけに注目し、「強制的にネットから離す」というサポートをおこないます。その際には、ただネットから離すだけではなく、現実世界で称賛される・周囲から褒められるという経験をさせる機会を作るのが必要があります。
訴訟されるリスクについて説明をするという方法もありますが、「実際に訴えられていない」という過去の経験があることから、「ただの脅し」ととらえられてしまい効果が低いことがあります。
原因に合わせたアプローチが重要
誤学習を「学び直し」させるためには、その原因を突き止めることがファーストステップです。
同じ問題行動が起こっていたとしても、その背景にある理由がお子さまによって異なることがあります。
誤学習のもととなる「過去の経験」は、お子さまによってさまざまです。
例えば、誤学習の事例として「人が遊んでいるゲームを自分がやりたいときに、友達を叩いてしまう」という問題行動があります。
「友達を叩いたからゲームができた(自分の欲求が実現できた)」という過去の結果が原因であると考えてしまいがちですが、実際には
- お兄ちゃんがそうしていたから(適切な行動だと思って真似た)
- お友達を叩いたときに、別のお友達が笑った(注目を浴びることができた)
という経験によるものであるケースもあります。
さらに、発達障害の特性は十人十色であるため、なかなかご家庭内だけでは、原因を見極めるのが難しいことがあります。
発達障害のあるお子さまの支援機関に相談してみるのもおすすめです。専門的な視点から、お子さまの行動を分析し、アプローチ方法を見極めていくことができます。
児童発達支援「ハッピーテラスキッズ」放課後等デイサービス「ハッピーテラス」では、発達に課題のあるお子さまへの療育だけではなく、その保護者の方へのサポートもおこなっています。
お子さまの特性への理解を深めたい、家庭での療育の方法を知りたい、園・学校との連携について教えてほしいなどのご希望のある方は、ぜひお近くの教室にご相談ください。