発達障害のあるお子さま向け|性教育のススメ【基礎知識編】
お子さまの「性教育」に悩んでいる保護者の方は少なくありません。
- 子どもの性的な言動を止めたい
(異性を凝視したり抱き着いてしまったりする、人前で性器を触ってしまうなど) - 子どもが「身体と心の急な成長」に戸惑っている
- 性行為に関する質問にどう答えたらいいか分からない
このようなお悩みや課題をお持ちの方に向けて、今回は「発達障害(知的障害)のあるお子さまへの性教育」をご家庭でするときに知っておくべき基礎知識を紹介します。
また、なぜ家庭で教える必要があるのかについて解説していきます。
ちなみに「性教育」とは、性交や生殖に関することだけでなく、思春期における身体や心の変化(二次性徴)について教えることも含まれます。
目次
日本の学校における「性教育」の現状
本題に入る前に、日本の学校教育における「性教育」についてお話します。
「日本は他の国に比べて性教育が遅い・内容が不十分」と言われることがあります。「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」によると、年齢別の学習目標と主な内容は下記のように定められています。
学年・年齢別学習内容
年中~小2 (5~8歳) | 赤ちゃんがどこから来るのかを説明する。 |
小3~6 (9~12歳) | どのように避妊するのか、避けられるかを説明する。 避妊方法を確認する。 |
小6~中3 (12~15歳) | 妊娠の兆候、胎児の発達と分娩の段階を説明する。 |
中3~高3 (15~18歳) | 生殖、性的機能、性的欲求の違いを区別する。 |
一方で日本では、下記のように定められています。
学年・年齢別学習内容(普通学級)
小3~4 (9~10歳) | 健康な生活と体の発育・発達 |
小5~6 (9~12歳) | 心の健康(ストレス)・けがの防止 |
中1~3 (13~15歳) | 健康な生活と疾病の予防、傷害の防止、 心身の機能の発達と心の健康、健康と環境 |
学年・年齢別学習内容(特別支援学校)
小学部 | 健康に必要な事柄 |
中学部 | 体の発育・発達、けがの防止、病気の予防 |
【保健体育編】 中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説
特別支援教育学習指導要領解説
例えば小学4年生の年齢において、世界的な基準では「避妊方法」を学んでいますが、日本では「身体の発育・発達(年齢に伴う変化、身体の変化の個人差、男女の特徴、初経・精通、異性への関心)を学ぶ」段階なのです。
海外では日本と比べ、性的な行動に伴うリスクを教える教育を重要視しています。
日本の学校教育では「保護者の理解を得る必要がある」ことが厚生労働省により定められており、他の国と比べても「性教育」はナイーブなものとして扱われることが多く、学校で踏み込んだ指導をおこなうことが難しい実態があります。
日本では、「まだ性的なことに関心がない年齢であるときに、興味を持たせるような話をするべきではない」という考えが多いと言われていますが、実際には、性教育を早期におこなっても性交年齢は早まらず、むしろ性的なことに慎重になるという研究結果があります。
このような背景から、学校では踏み込んだことは教えられないため、ご家庭での「性教育」が今注目を集めています。
マンガやインターネット動画など、お子さまにとっても分かりやすく親しみやすい家庭用教材が増えてきています。
早い段階での性教育が必要な理由
インターネットなどで容易にさまざまな情報が手に入る中で、誤った「性」に関する知識を身につけてしまう可能性があります。
とくに発達障害や知的な遅れのあるお子さまの場合には、適切なタイミングで性教育をおこなわないことで、下記のような困りごとが出てくることがあります。
急な身体の変化に対するパニックや強い不安
男児の場合:「声が変わること」に強烈な違和感を持ち、首を絞める、喉をこぶしで叩く
女児の場合:「身体が丸くなること」で太ったと感じ、過度なダイエットをしようとする
第二次性徴による急な身体の成長に対し自分に何が起こったのか理解できずに、パニックを起こしてしまうことがあります。
身体の変化が起こる前に、どのような変化が訪れるのかを具体的に教え、「人間の成長において当たり前のこと」と理解してもらうことが大切です。
「羞恥心」「プライバシー」獲得の遅れ
人目を気にせず、服を脱ぐ、性器を触ってしまう
人との距離感が分からず、パーソナルスペースを確保することができない(抱き着いてしまう、身体を触ってしまう等)
好きな相手に対して、付きまといや強い執着を見せる
定型発達の子どもでも差があるものですが、障害のある子どもの場合は、よりそれが顕著になることがあります。とくに自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性がある場合には、「他者視点(人の立場になること)」が難しいために、「羞恥心」「プライバシー」を理解するのが難しいことがあります。
羞恥心やプライバシーの概念を理解していても、ADHDの「衝動性」の特性がある場合には、目的の場所(トイレやお風呂等)に着く前に、服を脱ぐなどの行動が見られることがあります。「早く始めたい!」という気持ちを抑えきれず、羞恥心よりも衝動性が勝ってしまうのです。逆に、目的を終えたあと、すぐにトイレから出たい!という気持ちが強く、ズボンを履く前に外に出てしまうことがあります。この場合は、羞恥心やプライバシーについて教えても効果がなく、衝動性をコントロールさせることが必要です。
「幼いころは許されたのに、今はダメだと言われる」その理由が分からないのに、指摘されたり、からかわれたりすることで、自己肯定感が下がることも少なくありません。
発達障害のあるお子さまの場合、一人ひとりの理解度合いや特性に配慮をした「伝え方」をする必要があります。そのため、学校教育だけでは不十分であることも少なくありません。ご家庭や放課後等デイサービスなどの支援機関でのアプローチが重要になります。
急に大人に近づく思春期に、不安やストレスを強く感じるお子さまは少なくありません。
お子さまの様子を観察し、適切なサポートをおこなうようにしましょう。
性教育をはじめる時期
いつから家庭での「性教育」をおこなうべきかについてお話します。
おさえておきたいのは以下の4つの時期です。
- 幼児期から段階をおって
- 学校で教わるタイミング
- 子どもが興味を持ち始めたタイミング
- 性的な言動をしたタイミング
それぞれ詳しく説明していきます。
1. 幼児期から段階をおって
「思春期が来るころに教えればいい」と考えている保護者の方は少なくありませんが、それでは遅いことがあります。
未就学児(3~5歳前後)の段階から、身体の機能・役割のことや、「プライベートゾーン(性に関わる、触らせたり見せたりしてはいけない身体の部位)」の概念を、お子さまに伝わる表現で教えることが大切です。なるべく早期に「身体のここは大切な部分」と理解をさせることで、その後の性教育がスムーズになります。
お子さまが思春期になる頃には、保護者の方と性的な話題をすることに気まずさを感じることや、嫌悪感を示すことがあります。子どもと性のことを話しづらくなる前からアプローチをすることが大切です。
2. 学校で教わるタイミング
お子さまの教科書は常に目を通しておき、今どのようなことを学校で教わっているのかを聞くようにしましょう。
学校で「身体の仕組み」や「二次性徴」のことを学んだときに、授業で用いている単語を使いながら、家庭でしか教えられないことを話すことが大切です。
先述の通り、学校では「知識を覚える」ための教育をおこなうため、具体的なイメージを持てないお子さまもいます。家庭では、学んだ知識をストーリー(お付き合い・結婚・妊娠・出産など、保護者の方の実体験など)にすることで、お子さまへの理解を深めていくことができます。
3. 子どもが興味を持ち始めたタイミング
「赤ちゃんはどうやってできるの?」「セックスってなに?」などお子さまから質問をされたときに、ぎょっとして焦ってしまった経験がある方もいらっしゃると思います。
このときに、嘘をつく(コウノトリが運んできたなど)ことや、「まだ早いかな」「お母さんも分からないな」などとごまかすことはやめましょう。
質問をされたときには、恥ずかしがらずに堂々と冷静に答えるようにしましょう。保護者の方が驚いたり気まずそうにしたりする様子を楽しんでしまうことや、「性」を後ろめたいものと捉えてしまうことに繋がります。性の問題は「恥ずかしいこと」であってもよいのですが、「やってはいけないこと・悪いこと」と捉えすぎてしまうと、人間として成熟しないことがあります。
4. 性的な言動をしたタイミング
未就学児~小学校低学年のお子さまによく見られる性的言動として、面白がって「ちんちん!」と叫んだり、スカートめくりをしたりすることがありますが、「子どものやることだから」と放っておかずに、やってはいけないこととその理由を教えるようにしましょう。
性器いじりについても同様です。行動が起こった“そのとき”に、なぜやってはいけないのか?を教えるようにしましょう。「おちんちんは、お風呂やトイレでは出していいけど、それ以外の人がいる場所では、出してはいけないんだよ。」と場面や場所を具体的に伝えながら、判断基準を教えるようにしましょう。「恥ずかしいからやめなさい。」などの感情論を伝えるのは避けましょう。
障害のあるお子さまの場合には「お子さま一人ひとりに合わせたスピードと伝え方」を意識することが大切です。「大人に近づいてきたら、自然に性の知識が身に付き、やってはいけないことを察することができる」と考えることはNGです。
やってはいけないこと。なぜやってはいけないのか。やりたくなったらどうすればいいのか。それぞれをお子さまが分かる言葉を使いながら教えるようにしましょう。
「性教育(基礎知識編)」まとめ
今回お伝えした「性教育(基礎知識編)」のポイントをおさらいします。
- 日本の学校教育では、「性教育」が遅いことや、性的な問題行動への対応が不十分であることがある
- 障害のあるお子さまの場合には、一人ひとりの発達段階や特性に応じたフォローが必要
- 「性教育」に早すぎることはなく、お子さまが興味を持ったときに教える
- 保護者の方が「性教育」を後ろめたいものと捉えない
性教育が不十分な場合、心と身体の変化に余計な不安を感じたり、性犯罪に巻き込まれたり、性的な問題に発展する可能性があります。お子さまを守るためにも、できるだけ幼いころから、年齢に応じた教育をするようにしましょう。
また、保護者自身が正しい知識を持つことが大切です。昨今では「LGBTQIA(Q クィア:自身のセクシュアリティが分からない・決めていない・決めたくない、Iインターセックス:生まれつき男女の性的機能の両方を持つ、Aアセクシャル:恋愛感情や性的欲求を抱かない)」などのジェンダーに関する理解も求められています。
性教育はできるだけ「同性」の保護者の方がすることをおすすめしています。大人になったときに、異性にも性的な話をしてしまうようになり、トラブルに発展する可能性があるためです。
同性の保護者の方の対応が難しいときや、どのように「性」に関する説明をすればいいか分からないときに、相談先となるのが「障害児通所支援サービス(児童発達支援、放課後等デイサービス)」です。
ハッピーテラスでは、ほとんどの事業所に男性・女性指導員が在籍しています。お子さまに向けた性教育もおこなっています。
発達に凸凹のあるお子さまの性教育は、ご家庭だけでは難しいことがあります。
お子さまの性教育について悩んでいる方は、ぜひお気軽にご相談ください。
先生紹介:比良先生
元学校教諭×二児のパパの視点から、ご家庭で役立つ情報をお伝えします!
大学卒業後、高等専修学校に保健体育の教諭として従事。
その後、ハッピーテラスの教室長、エリアマネージャー、支援スタッフ向け研修講師、全国のハッピーテラスの保護者向け勉強会の講師など、発達障害のあるお子さまの支援に幅広く携わる。
【保有資格:高等学校教諭一種/学習支援エキスパートサポーター/ひきこもり支援相談士】