「発達障害のある子どもを叱ってはいけない」は間違い?正しい叱り方は
発達障害のあるお子さまが、やってはいけないことや困った行動をとってしまったときに「叱ってはいけない」とは本当なのでしょうか?
実は、障害の有無を問わず、お子さまを「叱る」ということは、子どもの発達にはとても重要で必要不可欠です。ただし、障害特性に応じた「正しい叱り方」をしないと、お子さまの行動を正しく導くことはできません。
発達障害のあるお子さまへの接し方・伝え方のコツ【事例で紹介】の記事も、ぜひあわせてお読みください。
子どもを叱ることの重要性と、発達障害のある子どもへの適切な叱り方について紹介をします。
今回は、お子さまを叱る場面の代表例である「いたずら」にフォーカスして説明をします。
目次
子どものいたずらは「適切に叱る」ことが大切
「発達障害のある子どもを叱ってはいけない」ということを言葉通りに捉えすぎている方は、少なくありません。
人間が発達していく過程で「叱られること」はとても大事です。
自己肯定感を下げることや自信を失わせてしまうことに繋がってしまうのでは?と懸念をされる保護者の方は少なくありませんが、「適切な叱り方」をすれば、成長のきっかけになるのです。
子どもがいたずらをする理由
小さなお子さまに多く見られる「いたずら」は、成長過程のサインともいえます。
- 汚れてはいけない服で、泥遊びをする
- ティッシュペーパーを部屋一面に散乱させる
- 壁に落書きをする
- 買い物かごの中に、買う予定ではないお菓子を勝手にいれる
など、忙しい日々の中で、思わず大きな声で怒りたくなるようないたずらをされることも多々あるでしょう。
なぜ、子どもは怒られるのに「いたずら」をするのでしょうか。
実は「いたずら」は「注意ひき行動(注意獲得行動)」の一つなのです。
子どもの「注意ひき行動」とはその名の通り、自分に注意を向けたいために、わざと目を引く行動を取ることです。
この「注意ひき行動」をおこなう理由は、「お母さんがちゃんと自分を見ているか?」と確認をし、ちゃんと見られている=守られていると認識したいためだと言われています。
いたずらをしたら叱るべき
注意ひき行動であるいたずらに反応を示さない場合には、「自分のことを見ていない」と保護者の方への信頼を失ってしまうことや、二次障害(とくに愛着障害)に繋がる可能性があります。
いたずらをした⇒すぐに叱られる⇒自分のことを見てくれている!と安心感を得られるため、いたずらをしたその場ですぐに叱ることが大切です。
お母さんから少し離れた場所でいたずらをする⇒すぐに叱られる⇒お母さんが見ている(安心感)、という流れを繰り返し、徐々に母親から離れた場所に行っても不安にならないようになってきます。
子どもは、赤ちゃんのときにはお母さんにべったりとくっついており、少しずつお母さんから離れた場所でも遊ぶようになり、そのうちにお母さんが視界に入らないところでも不安がらないようになってきます。
これを「母子分離」と言い、子どもが自立をしていくための第一歩になります。いたずらに対し、適切な反応を示さないことで、母子分離がうまくいかないことがあります。
また、いたずらを叱るときには、感情的に怒るのではなく、なぜやってはいけないのかを具体的に説明することが大切です。いたずらをして叱られることは、やっていいこと・やってはいけないことを整理して、「社会における善悪」や「道徳心」を身につけていく機会もなります。
ただし、過剰に怒りすぎることや手をあげてしまうことはいけません。また、発達障害のあるお子さまの場合には、叱り方に注意が必要です。
発達障害のある子どもにしてはいけない「叱り方」は?
今回は「大量のトイレットペーパーをトイレに詰まらせてしまった」という事例を用いて、NG例と適切な叱り方を紹介します。
定型発達のお子さまに対しては効果があるとされる𠮟り方であったとしても、発達障害のあるお子さまには適切ではないことがあります。
NG!名前を呼ぶだけ
トイレが詰まって水があふれかえっている!そんな場面に遭遇したら思わず、「こら、○○くん!もう!」と大きな声で名前を呼んで、怒る方も少なくないのではないでしょうか。
この「名前を呼ぶだけ」は、発達障害の特性のあるお子さまにとっては不適切な叱り方です。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性の代表例に「明文化されていない(はっきりと文章になっていない)ことの理解が難しい」「場の空気や暗黙のルールを読むことが苦手」というものがあります。
定型発達のお子さまであれば、不適切な行動をしていたときに、「○○くん!」と名前を呼ばれれば、「悪いことをしたから、怒られた」と察することができますが、特性がある場合には「ただ単に自分の名前を呼ばれているだけ」と解釈をします。名前を呼ばれた背景やその意図を汲み取ることが苦手なためです。名前を呼んでも振り返らないのは、発達障害あるあるですが、この特性による苦手が原因なことが多いです。
「○○くん、トイレでいたずらをしないで」「○○くん、トイレにたくさんの紙をいれるのはやめなさい」など、名前+具体的にやってほしいこと・やめてほしいことをセットで伝えるようにしましょう。
NG!「なぜ?」を使って叱る
ただでさえ忙しいのに、いたずらをされたことで余計な仕事が増えてしまったとき「なんでこんなことしたの!!」と叱ってしまうこともあると思います。
「なんでするの!」「なぜやったの!」という表現はお子さまを叱るときに多用される表現ですが、この「なぜ」と問う𠮟り方も、発達障害のあるお子さまには不適切です。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性に「文字通りに受け取る」というものがあります。その特性のあるお子さまは「なぜやったか」と理由を聞かれていると解釈します。「トイレットペーパーをどのくらいまでいれれば、トイレが詰まるのかを知りたかったから」「トイレペーパーを入れるのが楽しかったから」など、行動の理由を答えることがあります。いたずらの場合には、特に意味もなくおこなっていることもあるため、「なぜ?」と聞かれても答えられないこともあります。
- 「なんでこんなことしたの!」と注意をしたときに、理由を説明したのに、さらに怒られ、パニックになる
- 「なぜ」と聞かれたのに、答えられず、「お母さんからの質問に答えられなかった」と自信を失う
などと、自己肯定感を下げてしまうことに繋がりかねません。その結果、二次障害になる可能性もあるのです。
怒っているときに言う「なぜ」は理由を聞きたい訳ではないですよね。相手を問い詰めて反省を促したいのだと思いますが、言葉を文字通りに受け取るお子さまの場合、その裏の意図は読み取れません。それによって、お母さんの意図とお子さまの受け止め方にズレが生まれ、それがお互いのストレスになってしまいます。
発達障害のあるお子さまには、不用意に「なぜ」を使うことは避けましょう。
「トイレットペーパーをたくさんトイレに流したらいけないよ」と具体的に良くない行動について伝え、「トイレが詰まると直してもらわないといけなくて、直るまではトイレができないんだよ」などその行動が良くない理由を分かりやすく説明しましょう。
NG!肯定的に受け止めすぎる
発達障害のある子どもは叱ってはいけない、と言葉通りに捉えていた方の中には、子どものいたずらにも、肯定的に対応しなければならないと思っていた方もいるのではないでしょうか?
「好奇心があるんだね」「頑張ったね」「すごいね」「面白いね」など、悪いことをしたにも関わらず、褒めるだけで終わってしまうのは、あまりよくありません。むしろ褒められたことで「トイレに無駄に紙を流す」といういたずらの回数自体は増える可能性があります。
前項でもお伝えした通り、いたずらは「やっていいこと・悪いこと」を学ぶ機会にもなるため、すべて肯定的に受け止められると、その分別が学べなくなってしまいます。
社会に出たときに、「やっていいこと・悪いこと」を理解していないと困ってしまうのはお子さま自身です。適切なタイミングで適切に注意をおこない、物事の分別の理解を促すことが大切です。
発達障害のあるお子さまを叱るときのポイントまとめ
障害の有無を問わず「叱る」ことは非常に大切です。ただし、発達障害の特性による苦手に応じた、適切な叱り方を心がけましょう。
- やってはいけないことを「具体的」かつ「分かりやすく」伝える
- なぜ「やってはいけない」なのか、理由を明確に伝える
- 発達障害の特性がある子どもが理解できない表現を避ける
この3つポイントがとても大事です。
今回のトイレットペーパーを詰まらせる場面においては、そもそも「どのくらいの量のトイレットペーパーを使うことが適切なのか」を理解してもらうことも大切です。障害特性によって、曖昧な表現の理解が難しいお子さまがいます。
「定量的(●cmくらい)」に伝えるか、視覚的にわかるように原物大のイラストや実寸のテープをトイレの壁に貼るなどの方法もあります。
「このテープより短い紙を2枚までは流していい」というルールを予め設定し、そのルールを守れなかったときには「このテープより長い紙をたくさん流すと、トイレが壊れちゃうかもしれないよ。もし壊れたら修理屋さんが直してくれるまで、トイレに行けなくなるよ。」など、「とってほしい行動」と「やってはいけない理由」を、お子さまの特性を踏まえながら、はっきりと伝えましょう。
このときに「このテープより長い紙を流すと、トイレが壊れるよ。」のように、断定的な表現は避けましょう。もし流しても壊れなかったときに、言葉を文字通りに受け止める子どもにとっては「お母さんが嘘をついた」ことになってしまいます。それによって、お母さんの注意を信用しなくなるということが起きることがあります。
ちなみに、注意欠如・多動性障害(ADHD)のあるお子さまの場合には、その特性から衝動的に「よくない行動」をとってしまうことがあります。これはまた別の記事で紹介します。
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発達障害のあるお子さまの場合、よくある「叱り方」が通用しないことが多々あります。その結果、必要以上に声を荒げてしまったり、腕をつかんでしまったりしてしまう…子どもを愛しているのに、過剰に怒ってしまって自己嫌悪になる…そんな悩みを抱える保護者の方は少なくありません。
また、その子に合った「適切な叱り方」や「分かってもらえる伝え方」が分からずに、困り果てることもあると思います。
保護者の方が子どもへの接し方を学ぶ「親子トレーニング(ペアレントトレーニング)」というものがあります。上手に叱れるようになりたい、子どもの成長を正しくサポートしたい、などお子さまとの関わり合い方について理解を深めたい方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか?
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