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「何でもいいよ」で固まる年長さんへ:抽象的な指示が苦手な子どもの特性と、自信を引き出す療育のヒント
「好きな絵を描いて」や「自由に遊んで」といった抽象的な指示に対して、固まってしまい何もやってくれないという経験をしたことはありませんか?じつはこれは、子どもにとって「何をしたらいいのかわからない」という状態になっているかもしれません。今回は具体的な事例とともに、ハッピーテラスで実際におこなった療育の効果と指導のコツをご紹介します。
Aさんのケース:具体的なエピソード
Aさん(年長)は、幼稚園での「自由制作」や家庭での「お絵描き」の時間になると、鉛筆を持ったまま行動が止まってしまうことが特徴でした。
印象的なエピソードは、ある日の集団指導での出来事です。「さあ、今日はみんなの好きな絵を描いてみよう!」という指示に対し、Aさんは動けなくなってしまいました。先生が「何でもいいんだよ、Aくんの好きなもので」と言葉をかけると、Aさんは逆にパニックになり、「どうすればいいの!」と泣き出してしまったのです。

保護者の方からは、「好きなものがないわけではないのに、なぜか行動に移せない。本人はやりたい目標があるのに、スタートが切れない様子を見ると、子育てに悩んでしまう」とのご相談がありました。この状況は、Aさんが「何でもいい」という言葉の中に含まれる無限の選択肢に圧倒され、行動の目標を定めることができていないサインでした。
困りごとの背景にある特性とは
Aさんのように、抽象的な指示や自由な課題で立ち止まってしまう行動の背景には、発達障害(特にASD)のある子どもに多く見られる、実行機能の特性が関係していることが考えられます。
実行機能とは、「目標を設定し、その目標を達成するために計画を立て、それを実行し、必要に応じて修正していく一連の機能」のことです。Aさんの場合、「好きな絵を描く」という目標は理解できても、以下のステップに行動を分解することが難しいのです。
- 目標設定:「何を描くか」を決める
- 計画立案:「色鉛筆やクレヨンなど、何の道具を利用するか」を決める
- 手順の開始:「どこから描き始めるか」を決める
また、感覚の過敏さから、道具の素材や画用紙の質感、絵を描くときの状況など、さまざまな刺激に対して敏感になり、行動開始への遅れに繋がっている可能性も理解しておく必要があります。この特性は決して「わがまま」や「性格」ではなく、脳機能の特徴として適切な支援が必要な障害の側面です。
発達の目安とAさんの現在地
年長(5〜6歳)の発達の目安として、子どもは以下のような行動ができるようになってきます。
- 目標を持って、簡単な行動を計画・実行できる(例:「おにごっこをするために、まずルールを説明する」)。
- 複数の選択肢から好きなものを選び、行動に移せる。
- 遊びや生活の状況に合わせて、柔軟にルールや行動を修正できる。
Aさんの場合は、言葉の理解や運動面での大きな遅れはありませんが、「目標を達成するための手順を計画する」という実行機能の部分で、発達の遅れが見られました。これは、子ども本人が「どうにかしたいのに、どうすればいいか分からない」という強いフラストレーションを抱える状況を生み出します。適切な早期支援をおこなうことで、発達の特性に合わせた指導が可能になり、自己肯定感を育みながら目標達成能力を伸ばすことができます。
ハッピーテラスで行った支援と、その後の成長
ハッピーテラスの療育では、Aさんの「好きな絵を描けない」という困りごとに対し、「抽象的な指示を具体的なステップに分解する」ための指導と、実行機能を支援するプログラムを実施しました。
1. 抽象的な指示の「見える化」(視覚的支援の利用)
「好きな絵を描く」という言葉を、Aさんが理解できる具体的な5つのステップに分解し、視覚的な支援カードを作成しました。
- テーマを目標から選ぶ(例:食べ物、動物、家族、乗り物)
- 描く道具を選ぶ(例:色鉛筆、クレヨン)
- 色を決める(例:メインカラーを2色だけ選ぶ)
- 下書きをする(例:鉛筆で丸を一つ描く)
- 色塗りをする(例:下書きした丸を塗る)
この支援により、Aさんは「目標が明確になり、このステップの通りに進めば行動が成功する」という見通しを持つことができるようになりました。特に、ステップ5の「色塗り」まで進むと、子どもは集中力を発揮し、最後までやり遂げることができました。
2. スモールステップでのコミュニケーション練習
最初から大きな画用紙に挑戦させるのではなく、ポストカードサイズなどの小さな対象からスタートしました。「まずは色を塗る練習」として、画用紙の一部分をマスキングテープで区切り、「この枠だけを、好きな色で塗ってみよう」と具体的な目標に絞りました。

これは、行動の目標を小さく設定することで、失敗への不安を軽減し、「できた!」という成功体験を積み重ねるための指導です。指導員がAさんと一緒に道具を利用し、コミュニケーションを取りながら進めることで、Aさん自身の自己理解も深まりました。
3. 実行機能を育む療育プログラムの実施
絵を描くこと以外にも、「どうすれば目標を達成できるか」を指導する療育プログラムを積極的に利用しました。例えば、ブロック遊びで「見本と同じ形のタワーを作る」という目標を提示し、「まず必要なブロックを集める→土台を作る→積み上げる」という手順を、言葉と行動で確認し合いました。
これらの支援を継続した効果として、Aさんは「自由に描いて」と言われても、すぐに「えっと、テーマは動物、道具はクレヨンで…」と自分で手順を言葉に出してから行動を開始できるまでに成長しました。以前は苦手だった状況でも、自分で「どうすればいいか」を考えられる力が育ち、「お絵描きは楽しい!」と笑顔を見せてくれるようになりました。

まとめ:一人で悩まず、まずはご相談ください
育児や子育てにおいて、子どもの「こだわり行動」や「行動の遅れ」のように見える状況は、その多くが発達の特性に起因しています。Aさんのように「好きなことができない」という困りごとは、抽象的な指示や見通しの持てない状況に対する、発達障害の特性からの不安の表れなのです。
家庭で一人で悩まず、早期に専門的な支援機関を利用することが、お子さまの可能性を最大限に引き出すことにつながります。ハッピーテラスでは、公認心理師や言語聴覚士などの専門****指導員が、お子さま一人ひとりの特性を理解し、スモールステップで目標達成行動を促す療育サービスを提供しています。
児童発達支援「ハッピーテラスキッズ」放課後等デイサービス「ハッピーテラス」は、発達に課題のある子どもたちと家族を対象とした施設です。まずはお気軽にご相談ください。

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