「先延ばしグセ」のある子どもをやる気にさせる|ADHD
ADHD(注意欠如・多動性障害)特性のひとつに「先延ばしグセ」があります。
いつまでたっても、宿題をやらない・部屋を片付けない・お風呂に入らない等、嫌なことや面倒くさいことを後回しにする様子が気になることはありませんか?
子どもにやる気を出させようとして、褒め方の工夫をしたり、モチベーションを高めるためのご褒美を用意したりするものの、なかなかうまくいかないと悩まれる方も多くいらっしゃいます。
今回は、ADHDのある子どもの「先延ばしグセ」「やる気が出づらい」原因と、保護者の方の適切なサポート方法についてご紹介します。
目次
ADHDと「先延ばし」「やる気」の関係
ADHDについて調べているときに、特性の代表例としてよく目にする「先延ばしグセ」と「やる気が出づらい」について説明します。
ADHDのある子どもが、嫌なことを後回しにしたり、好きなこと以外のことはやる気が起きなかったりしてしまう原因には、「実行機能の弱さ」という脳の特性によるものが考えられます。
「先延ばしグセ」とは
ADHDの特性がない場合でも
- 宿題やテスト勉強が間に合わない
- 片付けや掃除、歯磨きやお風呂になかなか取り掛からない
- 好きなことや興味があることには積極的に取り組む
など「嫌なこと・めんどうなこと」を後回しにして、「好きなこと・興味のあること」を優先させてしまうお子さまは少なくありません。
子どもに限らず、「手続きや支払いの期日を過ぎてしまった」「衣替えをする前に季節が変わった」などの経験がある保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「先延ばし」の経験がある方は多いと思いますが、ADHDの特性がある場合には、”どうしても”やる気が出ないことがあります。
誰しも「嫌なこと・めんどうなこと」にはモチベーションが上がらないために、一向に取り掛からない子どもを見ていると「怠けている・努力が足りないだけだ」と思ってしまいがちなのですが、特性による苦手である場合には、本人だけでは解決できないことがあります。
ただし、特性によるものだけでなく、「やる気がない・甘えがある」という性格の課題があった場合には、特性対処しつつ「やる気の持たせ方」へのアプローチをする必要があります。
ADHDの特性「実行機能の弱さ」とは
実行機能とは、行動の判断や欲求の制御をつかさどる脳の機能です。
ADHDは、不注意や多動、衝動性を主な特徴とする障害ですが、実行機能がうまく働かないことが原因と考えられています。
実行機能の弱さによる「苦手」の例を「夏休みの宿題:工作」の例に沿って紹介します。
計画を立てること、段取りを考えること
例:「いつまでに:提出期限から行動を逆算する」や「何をどの順で:①何を作るか決める→②材料をそろえる→③〇の形に紙を切る…等の全体の段取り」を想定することが難しく、何から手を付ければよいか混乱しているうちに、やる気がなくなってしまう。
スケジュールどおりに物事を進めること
例:時間の見積もりが甘く、予定通りに用意が進められない。学校の授業で工作をしたときにかかった時間を参考にしながら、所要時間を想定することができないため、実現不可能な計画を立ててしまい、時間が足りなくなってしまう。
行動の切り替えをすること
例:ゲームをしたあとに工作に取り掛かるつもりだったが、ゲームをやめることができない。何度声がけをしても、ずるずるとゲーム続けてしまう。
感情や行動を抑えること
例:工作中に、好きなマンガが目に入ってしまい、作業を中断してマンガを読み始めてしまう。やらなければならないことは理解しているものの、マンガを見たい!という欲求を抑えきれない。
「宿題をしなければいけない」と理解はしているものの、実行機能の弱さによって、実際に行動に移すまでに時間がかかってしまったり、行動をはじめても途中でやめてしまったりすることがあるのです。
脳の特性によるものであり、本人の意思ではコントロールが難しいために、保護者の方や周囲からのサポートが必要です。
発達障害は目に見えづらい障害であるために、「努力や気合で、なんとかなりそう」という印象を持ってしまう保護者の方も少なくありません。
しかし、「やりたい気持ちはあるのに、できない」状態なことがあります。
その場合には「できない原因」になっているものを取り除いてあげましょう。
一方で、「できない原因」を無くしたとしても、その先に進むには「やる気」が関わってきます。そのため、特性への配慮だけではなく、個々に合った「やる気の出し方サポート」を考えていく必要があります。
ADHDの子どもを「やる気」にさせるコツ
行動がはじめられない原因が、ADHDの特性によるものである場合には、その特性に応じたアプローチが重要です。
ご家庭で実践できる「先延ばしさせずに、やる気を起こさせる」テクニックを紹介します。
行動スケジュールを一緒に立てる
「計画を立てることや、段取りを考えることが苦手」という特性がある場合には、お子さまと一緒に行動計画を立てるようにしましょう。
ゴールだけではなく、ゴールに至るまでの工程を明確にし、工程それぞれに期日を設定することがポイントです。
行動の見通しが立つことや、具体的な手順が事前に理解できることで、子どもが「できそう」というイメージ持つことができ、「やる気」がアップするため、作業に取り掛かるためのハードルが下がります。
また、「行動の切り替えが苦手」という特性がある場合には、ある作業から別の作業に取り掛かることが難しいため、前もって「〇時までは本を読む、〇時から宿題をやる」などスケジュールを決めておくと、子どもは「時間」を気にするようになります。お子さまが時計を見ているタイミング(=時間を気にしている状態)で「そろそろ宿題をする時間だね」と声がけをすると、スムーズに行動を開始できるようになります。
集中できる環境を作る
「注意が散漫になりやすい」という特性がある場合には、気がそれる原因となるものを視界から外すことがポイントです。
- 勉強机の上には、勉強をするのに必要なもの以外置かない(算数なら、算数の教科書・ノートだけとして他の科目のものは置かない)
- マンガやゲームなどは、ケースやバッグの中にしまっておく
- 部屋の隅に席を配置する、パーテーションを立てる
などの方法があります。
また、周囲の音に過敏に反応してしまうこともあるため、イヤーマフやノイズキャンセラー(耳栓)を使うことも有効です。視覚や聴覚への刺激を遮断することで、集中力を継続させやすくなります。
集中できる環境設定をすることで「集中力」を高めるときには、「声かけ」は控えましょう。
「頑張っているね!」などとつい褒めてあげたくなることもありますが、その声かけが気をそらせてしまうことになり、かえって逆効果なるので気を付けましょう。
「やりたい」と思わせるようにする
「先のことを見通すことが苦手」という特性がある場合には、その行動をするメリットが分からないことがあります。
例えば、勉強嫌いなお子さまの場合には、なぜ今地道に勉強をしなければいけないのか、将来どう役立つのかをイメージさせることが大切です。
好きなことにはすぐ取り掛かれることが多いので、「好き」を増やすために、「得意」を見つけ、褒めてあげることもよいでしょう。
やる気スイッチが強く入ってしまうと、「過集中」になることがあります。
疲れや空腹などに気づけなくなってしまい、結果として体調を崩すことがあります。
作業などに没頭してしまうことで、日常生活に支障をきたしてしまっている場合には、定期的に休ませることも必要です。
お子さまのへの声掛けのコツについては、発達障害のあるお子さまへの接し方・伝え方のコツ【事例で紹介】でも紹介をしているので、ぜひあわせてお読みください。
お子さまへの理解を深め、適切なサポートを
ADHDの特性である「実行機能の弱さ」による苦手は、一見「本人の努力不足」と混同されがちです。
ただ単にやる気がないのではなく、やる気スイッチが入りづらいという特性があることも理解することが大切です。
また、本当に「やる気がない・怠けやすい」という場合も、もちろんあります。しかもこの場合には、特性上やる気を出させること自体が難しいケースもあります。特性への配慮だけではなく「やる気アップ」のためのサポートも必要になってきます。
それに気づくことができずに、「なぜできないの!なぜやらないの!」などと叱り続けてしまうと、お子さまの自己肯定感はどんどん下がってしまいますし、そもそもやる気がない場合には、叱られることを避けるために、保護者の方とのコミュニケーションをなくそうとするケースもあります。
本人は「やろう」という気持ちがあるのに、なぜか「どうしてもやれない」という葛藤を抱いていたり、「やりたくないことを、やらないといけない」気力がどうしても沸かないという苦しさを抱いたりすることもあります。
特性による「苦手」の場合には、周囲のサポートが必要不可欠です。保護者の方以上に、困っているのはお子さま本人であることを忘れずに、どのような工夫をしてあげれば「できる」ようになるのかを考えていきましょう。
ADHDの特性には、「好きなことには没頭できる」という長所もあります。
特性の「弱み」だけに目を向けずに、「強み」に注目することが大切です。
好きなことや得意だと思えることを増やしていくサポートをしていくことで、お子さまが前向きになれたり、自信を持てるようになったりします。
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