ASDの薬はある?症状への治療薬は?|2025年最新情報
ASD(自閉スペクトラム症)を含む発達障害は、先天的な脳機能や神経系の障害であるため、障害そのものを治療することは難しいと言われています。症状を和らげることを目的とした対症療法として薬を用いることで、障害特性による「困りごと・生きづらさ」を軽減できることがあります。
一方でこれまで「ASDの薬はない※ADHD(注意欠如・多動症)の薬はある」と言われていましたが、近年ではASDの主症状に対する薬の研究が進んでいます。2025年の現時点では未承認ではあるものの、ASDの症状への効果が期待されている医薬研究・臨床試験のトレンド情報を紹介します。

目次
ASD(自閉スペクトラム症)の主症状とは
まずはじめに、ASDの主症状について紹介します。
これらの主症状に対する薬は現在承認されていませんが、研究は進んできています。
最新研究については「ASDのある子どもへの薬物療法とは|研究中のASDの主症状への薬」で紹介します。
① 人との関わりや、コミュニケーションに関する障害

② 他者の視点(人がどう感じるか・どう考えるか)、場の雰囲気や文脈(暗黙のルール、言葉や文章に含まれていない意図等)などの読み取りや想像の困難

③ 過度のこだわりや興味関心の偏り、反復的な行動

④ 感覚が過度に過敏または鈍感

ASDの症状について詳しく知りたい方は、自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?【知っておきたい基礎知識】を合わせてご覧ください。
ASDの主症状以外の症状とは
ASDと併存しやすい障害・疾患や二次障害について紹介します。
二次障害とは、もともとの障害(発達障害等)そのものではなく、その特性による生きづらさなどが原因となって生じる精神疾患や行動上の問題を指します。
先述した通りASDの主症状に対する薬は現在ありませんが、以下の障害・疾患が見られる場合に症状に応じて薬が処方されることがあります。
● ADHD(注意欠如、多動性、衝動性)
● 睡眠障害
● うつ病、パニック障害、不安障害等の精神疾患
● 攻撃性、自傷行為、かんしゃく等の行動障害
● 過敏性腸症候群等の機能性消化管疾患

ASDのある子どもへの薬物療法とは
ASDの治療薬として現在承認がおりている薬は現時点でありません。
前項で紹介をした主症状以外の症状に対してや、オフラベル活用としてASDの症状に対して処方される薬があります。
オフラベル活用とは、承認された用途とは異なる症状に薬を使用することで、既存の薬で「困っている症状」に対する効果を期待するものです(例:うつ病治療薬として許可されている薬だが、医師が「ASDの○○症状に効くかもしれない」と判断して処方をする)。
2025年現在、ASDのお子さまに処方されることの多い薬と、今後ASDの主症状への効果が期待されている薬について紹介します。

ASDの主症状以外の症状に対する薬
具体的な薬の種類と対象となる症状の一例を紹介します。
ただし、お子さまの症状・状況や原因によって処方される薬はさまざまですので、あくまでも参考としてお読みください。
抗精神病薬
エビリファイ(アリピプラゾール)、リスパダール(リスペリドン)
● 小児期(原則6歳以上18歳未満)のASDによる易刺激性(些細な刺激に対して過敏に反応し、イライラ・怒り・不機嫌等がみられる状態)
● 攻撃性、自傷行為、かんしゃく等の行動障害
神経伝達物質(ドーパミン・セロトニン)の働きをコントロールする薬であるため、オフラベル活用としてASDの「感覚過敏」や「こだわり」に対して処方されることもあります。
非中枢神経刺激薬
ストラテラ(アトモキセチン)、インチュニブ(グアンファシン)
ASDに併存するADHDの症状(不注意・多動性・衝動性)
ASDのお子さまの場合には、非刺激薬のほうが副作用が少ない傾向があると言われていますが、ADHDの傾向が強い場合などには、刺激薬であるコンサータ(メチルフェニデート塩酸塩)やビバンセ(リスデキサンフェタミン)等が処方されるケースもあります。
抗うつ薬
プロザック(フルオキセチン)、ジェイゾロフト(セルトラリン塩酸塩)
二次障害としてのうつ病・不安障害・強迫性障害等の精神疾患
オフラベル活用としてASDの「こだわり」に対して処方されることもあります。
睡眠改善薬
メラトベル(メラトニン)
二次障害としての入眠困難、夜間覚醒等の睡眠に関する症状や障害
ASDを含む発達障害と睡眠障害は併存しやすいと言われています。
服薬だけでなく、生活リズムの改善や環境調整等のアプローチをおこないます。
過敏性腸症候群治療薬
過敏性腸症候群(IBS)の場合には、症状のタイプや度合いによって治療薬が使い分けられるため、タイプごとに代表的な薬を紹介します。
イリボー(ラモセトロン塩酸塩)、ポリフル・コロネル(ポリカルボフィルカルシウム)
リンゼス(リナクロチド)、アミティーザ(ルビプロストン)
セレキノン(トリメブチンマレイン酸塩)
抗不安薬:リーゼ(クロチアゼパム)、デパス(エチゾラム)
抗うつ剤:ジェイゾロフト(セルトラリン)、ミルナシプラン(トレドミン)
お子さまの場合、まずは整腸剤・漢方や生活習慣・食事の見直し等で様子見をするケースが多いと言われています。

研究中のASDの主症状への薬
ASDの主症状への効果が期待される現在研究・開発中の薬について紹介します。
いずれも現時点では未承認ですが、近い将来、ASDの治療法のひとつになる可能性があります。
オキシトシン治療薬
● 表情(喜怒哀楽等)認知の向上
● 対人相互反応(アイコンタクト等)の増加
● 共感能力の向上
オキシトシンは、「愛情ホルモン」と呼ばれ、社会性や共感・信頼などの対人関係促進に関係する神経伝達物質です。ASDがある人はオキシトシンが少ない・オキシトシン受容体の働きが弱いのではないかという仮説があり、オキシトシンを補う治療法の研究が進められています。
「点鼻型オキシトシン(スプレー)を投与したところ、ASDの人のアイコンタクトの頻度が増加した」という報告があります。
「アイコンタクト(目と目を合わせる)」の困難は、ASDのある方の多くに見られます。原因はさまざまですが、非言語コミュニケーションであること(目を見て話す理由が分からない)・視線の動きの読み取りが苦手なこと・視線に対する過敏さ等がありますが、いずれもASDの社会脳の特異性によるものです。
現時点では日本では未承認薬(臨床試験レベル)ですが、今後の研究によっては、ASDあるある「共感性の低さ・コミュニケーションの苦手」への対策のひとつになる可能性があると言えます。

低用量オピオイド
● 感覚過敏・自傷の緩和
● 社会的無関心の緩和
● 表情(喜怒哀楽等)認知の向上
● 共感能力の向上
オピオイドとは、脳内のオピオイド受容体に作用し、鎮痛・多幸感・ストレス軽減をもたらす神経伝達物質です。ASDがある人は、オピオイド系の働きの異常がみられている可能性が指摘されています。
「脳内の報酬系(嬉しい・楽しい・やる気が出るときに働く脳の神経回路)や疼痛制御系(痛みを感じたときの感覚の調整や制御をする脳の神経回路)が鈍化しているため、低用量のオピオイド投与で神経調節が改善するのではないか」という仮説が立てられており、ASDの脳機能による困りごとの改善への効果が期待されています。
さらに、オピオイドの異常と社会的コミュニケーションの関係性を指摘する仮説もあり、他者との交流が活性化したり、他者への興味が持てるようになったりする可能性についても示唆されています。
現時点では理論上の仮説であり、科学的エビデンスは非常に限られて(個別報告段階、大規模な臨床実験は未実施)いますが、ASDの一部の症状改善を目的に低用量オピオイド薬を使う治療法の研究が進んでいます。

その他にも、ASDの症状改善に繋がる可能性が指摘されている薬があります。
以下は、オフラベル活用として対症療法的に使用されることがあります。
● メトホルミン:糖尿病
抗精神病薬の副作用による「体重増加や代謝異常」に対する薬ですが、ASDの易刺激性(イライラ、刺激を感じやすい)、社会性の回復、こだわりによる反復行動等の減少を示す研究があります。
● NAC(N-アセチルシステイン):解毒剤、去痰薬、抗酸化・抗炎症作用(サプリ)
脳内の興奮性伝達物質に作用する薬で、ASDの易刺激性、社会認識(他者の感情や意図、社会の仕組みやルールを理解すること等)の改善が一部の研究で確認されています。
いずれもASDに対する補助的アプローチとして症状の改善が期待されているものの、ASDそのものへの治療薬としては許可されていません。

補足情報:ADHD治療薬の研究トレンド
ASDの診断であっても、ADHDの症状が見られる場合には、ADHDの治療薬が処方されることがあります。
ADHDの治療薬・治療法に関するトレンド情報について紹介します。
アプリを使った治療
エンデバーライド
「エンデバーライド(ENDEAVORRIDE)Ⓡ」は、塩野義製薬が2025年2月に製造販売承認を取得した、子どものADHD向けの治療アプリです。
スマホやタブレットを使ったゲームを通じて、ADHDの注意力を鍛え、不注意や落ち着きのなさ等の症状を改善する効果が期待できるというものです。
日本で、子どものADHDを対象とした治療アプリが承認されたのは初めてで、薬物療法や認知行動療法等の心理療法に加えて、新たな治療の選択肢ができました。
参考:小児期における注意欠如多動症(ADHD)に対するデジタル治療用アプリ 「ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)®」の国内製造販売承認取得について

不安症状に対する作用
ADHD治療薬として代表的なものが「コンサータ(メチルフェニデート塩酸塩)」と「ストラテラ(アトモキセチン塩酸塩)」ですが、障害特性以外の症状との相性を踏まえたうえで服薬選択をする必要性が指摘されています。
コンサータ:不安を増幅させる可能性がある
気分の高揚、焦燥感、緊張感を引き起こすことがある
不安障害やその傾向がある場合には、悪化する可能性がある
即効性が高い
ストラテラ:不安を軽減させる可能性がある
非中枢刺激薬であり、不安が軽減することがある
依存性が低く、持続時間が長い
効果がゆっくりと現れる
それぞれメリットとデメリットがあるため、医師との相談の上で、お子さまに合った薬を見極めていくことが大切です。
新薬の承認、開発
ADHDもASDと同様に日々薬の研究や開発が進んでいます。
ビバンセ(リスデキサンフェタミン塩酸)の承認
ビバンセは国内で最も新しいADHD治療薬です。
ADHD治療薬の中でも、とくに持続性と安定性に優れているとされています。
1日1回の服薬で効果が最大14時間あり、効果が出てくるのが緩やかで効果の波(急に効く、効き目がなくなる)が少ないことが特徴で、日常生活に服薬による影響が出づらいと言えるでしょう。
センタナファジンの開発
センタナファジンは、ADHD治療薬として開発中の薬で、試験において優位な改善を示したことが発表されています。
非刺激薬でありながら、刺激薬に近い効果が期待されており、刺激薬でみられがちな依存や乱用のリスクが低いこと、副作用が少ないことなどが期待されているポイントです。
ADHD治療薬は、依存性や副作用、効果の持続などの面で課題がありましたが、近年の研究により「子どもが使いやすい薬」が増えてきています。

療育などのサポートと組み合わせる
薬だけに頼らず、療育などの心理社会的なサポートを検討することも必要です。
療育については以下のコラムも合わせてご覧ください。
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