ADHDの子どもは嘘をつく?原因と対応方法を紹介
ADHDがあるお子さまの「嘘」に困っている保護者の方は少なくありません。
例えば「宿題は終わったの?」という質問に対し「先生がやらなくていいって言ったから、やらない」など、すぐに嘘だと分かることを言ってくることがあります。
叱られそうなときに言い訳をするために、嘘をつくお子さまは少なくありませんが、嘘をつく頻度が非常に高かったり、お友だちの前でも嘘をついたりする様子をみて「虚言癖なのでは?」と心配になった経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の記事では、ADHDの特性があるお子さまが嘘をつく理由と対応について解説します。
目次
ADHDとは
まずはADHD(注意欠如・多動性障害)の特性についておさらいしましょう。
ADHDは、不注意・多動性・衝動性を特徴とする障害です。先天的な脳・神経系の障害であり、保護者の方のしつけや本人の努力不足によって起こるものではありません。
不注意
適切な対象(場所や物など)に注意を向けること、集中力を持続することが難しい。
気が散りやすい、忘れ物が多い、片付けが苦手 等
多動性
落ち着きがない、じっとしていることが難しい。
授業中に立ち歩く、手遊びが止まらない、不適切な場面で騒ぐ 等
衝動性
自分の行動や感情を抑制・制止することが難しい。
順番待ちができない、つい手が出てしまう、ダメだと言われたことをする 等
不注意・多動性・衝動性のどれか一つの症状だけが見られるのではなく、いくつかの特性が混合しているケースが多いと言われています。
子どもの嘘
発達障害の特性の有無を問わず、成長過程の中でお子さまが嘘をつくことはよくあります。
年齢や発達段階に応じた嘘である場合、特性に由来するものではないケースがあります。
幼少期の嘘
幼少期(3~6歳)の頃は、発達の過程として嘘をつくことがあります。
2歳を過ぎた頃から「嘘をつく」と言われています。この頃はまだ嘘をついている自覚がなく、自分の願望や想像したことを単に口にしたり、それを事実だと思い込んでしまったりすることがあります。
例えば、「ペガサスに乗りたい」という願望があったときに、適切な表現を知らないため「ペガサスに乗った」と言ってしまうケースです。
3歳を過ぎた頃から、現実と想像の表現方法の違いを身につけ、嘘というものを理解できるようになります。
学童期の嘘
小学校に入学する頃には、意識的に嘘をつくようになります。
嘘をついて得をした経験がある場合は、頻繁に嘘をつくことがあります。例えば、嘘をついたことで「ルールを守らなかったけど怒られなかった」「勉強をしなくて済んだ」などです。
過去の経験から「嘘をつけば叱られない(自分が不利にならない)」と学び、自分を守るために嘘を繰り返しているケースがあります。
学童期(小学生から中学生)を過ぎて、嘘の頻度が多すぎたり内容が深刻であったりする場合には、以下の2つが考えられます。
- ADHDの特性によるケース
- 嘘をつかないと解決できない悩みや困りごとがあるケース
この場合には、頭ごなしに「嘘はよくない!」と叱るだけでは解決できないことがほとんどです。
お子さまとしても嘘をつきたいわけではないことが多く、保護者の方がお子さまの嘘の理由を紐解いていくことが必要です。
お子さまの「嘘をつく」理由のひとつとして「試し行動」があります。
わざと良くない行動をすることで相手の反応を確認する行動です。
詳しくは、発達障害の子どもの「試し行動」。問題行動への対応は?をご覧ください。
ADHDの子どもが嘘をつく理由
年齢や発達段階に不相応な「嘘」が頻繁にみられる場合、ADHDの特性や二次障害によるものであるケースがあります。
特性によるもの
ADHDが虚言癖など嘘をつくクセの直接的な原因となることはないと言われていますが、特性によって「意図せず嘘をついてしまう」ことや「嘘をつかざるを得ない」ことがあります。
「虚言癖」とは、障害名ではなく、どうしても嘘をついてしまう性質のことです。
自分自身が嘘だと分かったうえで、事実とは異なることを話してしまうことを指します。
① 自分の「失敗」の原因が分からない
ADHDのあるお子さまは、その特性による「苦手」があるために日常生活や学校生活で「失敗」をし、保護者の方や先生から注意を受けたり叱られたりすることが少なくありません。
ADHDのあるお子さまに多い「学校生活での失敗」の代表例には以下があります。
- 不注意:忘れ物が多い
- 多動性:じっとしていられない
- 衝動性:やってはいけないことをする
「失敗」が特性によって起こっている場合には、自分自身で行動をコントロールすることが難しいことがあります。
本人としても「なぜできないのか・やってしまうのか」が理解できないため、行動の理由を無理やりこじつけることがあります。その結果、誰の目から見ても分かるような嘘をついてしまうのです。
このように、叱られそうな場面でその場しのぎの嘘をつくことが常態化してしまうことは、多くのADHDのお子さまにみられます。
お子さまが失敗をしたときに「なんで?どうして?」など理由を問い詰めてしまうことは、嘘の理由を作り出す原因となるため避けるようにしましょう。
とくに知的な遅れがないお子さまに多くみられます。
やめたくてもやめられない葛藤に苛まれ、「こんなこともできないダメな人間だ」と自己嫌悪に陥ってしまうことがあります。自分の心を守るために、嘘をつくことで自分を納得させて対処しようとすることもあります。
② 思ったことを口に出してしまう
「衝動性」の特性がある場合には、思ったことを口に出すことがあります。
また、自分の頭の中にある願望や空想していたことを、まるで事実のように話してしまうケースがあります。
本人は事実ではないことを理解しているものの、頭の中にあることを声に出してしまうのを抑えることができないために、言ってすぐに「なぜこんなことを言ってしまったのだろう」と自己嫌悪に陥ることがあります。
③ 事実を正しく理解していない
ADHDに限らず、発達障害のあるお子さまは、その脳の特性によって物事のとらえ方や考え方が人と違うことがあります。
また、「不注意」の特性がある場合には、気が散りやすく、状況を把握できないことがあります。
これらの特性によって、その場で起こったことや事実を正しく理解することが難しく、現実とは違うことを事実だと思い込んでしまうケースがあります。
いずれのケースも、本人としては嘘をついているつもりではないものの、周囲から見ると客観的な事実と異なることを話しているために「嘘つき」だと思われてしまうのです。
「嘘をついている」と決めつけずに、なぜそのようなことを言ったのか、理由を確認することがポイントです。
二次障害によるもの
ADHDのあるお子さまは、反社会的行為を特徴とする二次障害になりやすいと言われています。
嘘をつく症状のある代表的な障害として「反社会性パーソナリティ障害」があります。二次障害によって「虚言癖」のような症状がみられることがあるのです。
詳しくは、発達障害の子どもと二次障害|早期予防が大事をあわせてお読みください。
ADHDの子どもの嘘への対応
お子さまが嘘をついた理由を、周囲の大人たちが決めつけないようにすることが大切です。
ただ単に「宿題がやりたくない」など、自分が楽をしたいために嘘をついていることもありますが、その背景に特性があるのであれば、適切なアプローチをしていく必要があります。
「嘘をついた理由」を子どもに聞く
お子さま本人としては嘘をついた自覚がないケースがあります。
まずはお子さまの言葉を否定せずに、受け止めるようにしましょう。
そのうえで、「嘘をついた」という表現は避けながら、「なぜそう言ったの・そう考えたの?」とお子さまの言葉の裏側にある意図を探っていくようにしてください。
お子さまの「嘘」にはさまざまありますが、代表的なパターンごとの対策を紹介します。
① 自分を守るための嘘
自分が叱られることを回避するための嘘だと考えらえる場合には、「嘘をついてはだめ!なぜそんなことを言ったの?」と噓をついたと決めつけて叱ったり問い詰めたりすることは逆効果になります。
①自分の「失敗」の原因が分からないのケースの場合には、特性へのアプローチが必要になります。お子さまの年齢や発達段階によるものの、具体的には以下の対策が必要です。
- お子さま自身が特性を理解すること(自分が「苦手」なことを知ること)
- 周囲が特性に配慮をすること(失敗しないための環境を作ること)
- 理由に関わらず、その場でやるべき適切な行動を教えること
② 明らかに事実と異なる嘘
明らかに事実ではない(現実と大きく乖離している)ことが分かる場合は、お子さまが願望や空想を誤って「事実」のように話している可能性が高いため、「○○に”なったらいいと思った”んだね」と適切な表現のしかたを教えるようにしましょう。
③ 勘違いからくる嘘
お子さまのとらえ違いや勘違いと考えられるものに対しては、「詳しく教えてくれる?」と事実確認をするようにしましょう。
そのうえで、事実とお子さまの話に齟齬があった場合には、お子さまがどうとらえたのか、実際はどうだったのかをすり合わせていきます。
「嘘をつかなくてよい」環境を作る
①自分を守るための嘘のパターンの嘘をつくお子さまの場合には、何度も失敗体験を重ねてしまったことが、頻繁な嘘の原因になっている可能性が高いです。
特性によって「できない」ことを自分自身や周囲が理解しておらず、失敗する原因が分からないために、理由を無理矢理こじつけることで周囲や自分を納得させようとしているのです。
特性による「苦手」は、本人の努力だけでは解決することができません。
まずは、お子さまが「失敗」しないように、保護者の方や学校が特性に配慮した環境を整えるようにしましょう。
このパターンの嘘が多くみられるお子さまは、度重なる失敗によって、自己肯定感が下がっているケースが少なくありません。
スモールステップで一歩ずつ小さな成功体験を積み上げるためのサポートをしていくことも重要です。
環境づくりについて詳しく知りたい方は、
発達障害のあるお子さまが過ごしやすい環境を作るためには?
発達障害のあるお子さまへの合理的配慮【事例紹介】の記事をお読みください。
嘘をついたことを叱らない
お子さまが事実と異なることを言ったとき、「嘘をついてはダメ」と叱ってしまう方は少なくありません。
しかしながら、発達に課題のあるお子さまの場合には、まずはお子さまの言う嘘を受け止めることが何よりも大切です。
嘘をついている自覚がない場合には、なぜ叱られたかが理解できず、混乱させてしまうことになります。自覚があっても、特性による困りごとが背景にある場合には、「嘘をやめさせる」だけでは何の解決にもなりません。特性にあわせた適切な行動を教えることが大切です。
年齢や発達段階にそぐわない嘘がみられるときには、特性によるつまずきがあるかもしれない、と捉えるようにしましょう。
お子さまの特性のことを学び、特性に応じたアプローチを家庭や学校内だけですることは難しいことがあります。
そんなときに頼れる障害福祉サービスとして「児童発達支援(未就学児対象)」と「放課後等デイサービス(就学児対象)」があります。
児童発達支援「ハッピーテラスキッズ」放課後等デイサービス「ハッピーテラス」では、お子さま一人ひとりの特性を見極め、必要な療育を提供しています。
まずはお気軽にご相談ください。